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第30話

杉原先輩は立ち上がって、私の肩に手を置きました。 「ほら、帰るよ叶」 先輩からここまで聞いておいて、私が何も話さないなんて出来ませんでした。 「待ってください。……次は私が話す番です。」 そうです、話さなければなりません。 先輩は杉原 亮の兄、無関係じゃないからです……。 「いいよ、無理矢理聞き出そうなんて思ってないから」 先輩は優しく笑っていました。 「無理ではないです」 「カメラ、嫌なんデショ?写真が駄目なんだよね?」 「ぇ……?」 「だったら察しがつくよ。男が男を虐めるネタの定番だよね」 「ですが、私の言葉できちんと話したいんです!!」 じゃないと意味がないです。 私はベンチから立ち上がり、先輩の袖を掴みました。 先輩は申し訳なさそうに言います。 「察してあげれなくてごめんね、叶」 「お願いです、言わせてくださいっ」 「言わせない」 「お願いします、……聞いてくださいっ」 もう何もかも無茶苦茶でした。 ですから晴れた日は嫌いなんです……。 「言ったら、キスで唇を塞ぐよ?」 「好きにしてください!!聞いてくれるのでしたらそれでいぃ……っンぅ!!」 言葉通り先輩の口で塞がれてしまいました。 ……違いました。 キスでした。 舌を丹念に絡め取られて、吸われて……。 苦しくて何度息継ぎの間を与えて貰えのか分かりませんでした。 唇を舌で何回も舐められて、最後リップ音をたてて離れるころには、私はしがみつかなければ立っていられませんでした。 先程、私が保健室で求めたものと全く違うものです。 いつもより唇が熱いのが、私でも分かりました。 「どう?口淋しい口合わせと、言葉を塞ぐキス。いつもと違ったデショ?」 「何故私には言わせてはくれないんですか……?」 杉原先輩がどうしてそんなに辛そうな顔をするんですか? 「話させて辛いのは叶だから。聞く相手を間違えてるんだよ、俺は」 私は先輩にぎゅっと抱きしめられていました。 (杉原先輩はこんなに大きいんですね) 抵抗したって無駄でした。 それに、何故か私は杉原先輩に抵抗したくはありませんでした。 「このことは亮の口から、直接亮の言葉で聞くからいいんだ」 なんでしょう。 この落ち着ける気持ちはなんでしょうか。 とても安心感があって心地よいものでした。 「……やはり杉原先輩は優しいんですね」 「俺は優しさでは出来てないよ……。叶は知らないような、欲望と欲望と欲望で出来ている人間なんだ」 私はよく理解できていないのに笑ってしまいました。 「ふふふっ、なんですかそれ?」 「叶はまだ知らなくていいよ」 杉原先輩は私の耳元で、 「でも近いうち叶に知ってもらえたら、いいけどね?」 そう言われました。 少しだねくすぐったいけれど……嫌ではなくて、何故かドキドキと心臓が高鳴りました。

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