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第29話
「杉原先輩は私に何を話したいんですか?」
「ごめん。……少し叶のことを知ってるよ」
『聴きづらいだろうから座ろう?』と、ベンチに少し離れて座って話はじめました。
「少しですか?」
「そう、少しかな。……叶を虐めていた杉原 亮は俺の義理の弟だよ。」
「今日初めて知りました」
「俺の親父は叶の会社んちのある部門の支店長だよ。だから俺んちも金に関しては裕福な方だと思う」
『だから同じ学校でもおかしくないんだよ』、と笑った。
「俺と弟は腹違いの兄弟だから似ていない。顔で気付かないのは多分そのせいかな」
腹違いでなくても、似ていても気が付かなかったでしょう、私は人の名前と顔を覚えることが苦手ですから。
「ある日亮が学校で虐めをしていたって聞いた。……そのせいで、あいつそれきり部屋から出てこなくなった。まぁ、引きこもりやつ。でも、ドア越しに話したんだ。なんでも完璧にこなして、人を見下したヤツだから虐めたくなるだろう……って」
見下していたんですか?
私が……ですか。
「だから、俺は敵を取ろうと思って『笹倉 叶』をボコるために喧嘩ばかりして、ちょっとは強くなった」
「……では、の喧嘩の噂は」
「叶を虐めるためだよ」
公園の小さな灯りの先輩の表情は、あの困ったような笑顔でした。
「それで、どうされたのですか」
「ちょうど一年前くらいに、叶の転校した中学の文化祭で『笹倉 叶』がどんなムカつく奴か偵察しに行ったんだ。そしたら……」
先輩が真剣なトーンになりました。
「『笹倉 叶』は、『綺麗』だったんだ」
「……え?」
「キラキラしてた。まわりも輝いてた。眩しかったんだ」
「私が……『綺麗』ですか?杉原先輩はおかしいんじゃないですか」
こんなミックスな私が『綺麗』なはずがないです。
「自分の外見なんてナルシストじゃない限り、まわりが判断して自覚するもんだ」
杉原先輩がまた困ったように笑って、
「だって、俺が女の子にイケメンーとかカッコイイーとか言われて、自覚したくらいだし」
「……そうなんですか……?」
「叶はそう思わなかったみたいだったから、内心自信なくなったけどね」
「私は……人の顔を判断する感覚が麻痺してますから。所詮は中身もミックスです」
「勿体ないね、それ」
(……?)
「……何がですか?」
何が勿体ないのか分かりませんでした。
「それから、ちょっとずつ叶がどんな人間が知りたくなって、ウチの親父に聞きまくった。でもさ、笹倉グループの跡取りで、綺麗な外見くらいしか親父は知らなくて、……あと知ってるのは俺が見に行った叶本人。俺は喧嘩を今年入る前にやめたんだ」
『『綺麗』なものは壊したくないデショ』、と手を眺めて先輩は言いました。
「そしたら、今度は喧嘩売られるようになってっていって。払ってたら逆にボコられたよ。あれは償いだな」
償い……それは私にもいつか返ってきます。
(……利用してた杉原先輩から……)
「三年に入ってから出席日数が足りなくなったのは、ボコられて……痛くて起きられなかったからなんだよ」
『カッコ悪いよなぁー』と先輩は笑ってました。
「叶が俺を知って避けられたら嫌だから、俺が叶を避けてたのに、叶は知らないで傘貸してくるし、本当に参っちゃって。禁煙してた煙草吸いたくなるし、そしたら叶が止めにくるし」
「煙草は本当に身体に悪いので……」
「からかって、キスさせてくれたら禁煙できるかもって言ったら、本当にキスさせてくれるし」
……はぃ?
「逆に晴れてる日は激しくしてくれ、なーんて可愛いこと言うし?」
……えっ?!
「すぎはらせんぱいっ、あれ……キスなんですかっ?!」
「キス以外の何?ちゅー?口付け?接吻?まぁ俺はどれでもいいけどね」
「ええええええっっっ?!」
「あれ?……ひょっとしたら自覚なかった?」
「杉原先輩、だってあれは口淋しいって……」
杉原先輩は間を軽く空けたあとに唇に指を当ててにっこり笑った。
「あははっ!!ごちそうさまでした」
「あああああ……。最初からそう言って呉れないんですか!!」
「禁煙のため、これからもヨロシクね、叶」
……これが償いなのでしょうか?
「叶、俺とのキスは嫌?」
「嫌ではない……と思います」
そうなんです、あれがキスだと自覚した今でも、嫌じゃなかったのです。
自覚したら、とても顔が熱くなるのを感じていました。
「……明日から隠れてお願い出来ますか?」
「そうだね、その方が楽しいかもね」
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