29 / 85

第29話

「杉原先輩は私に何を話したいんですか?」 「ごめん。……少し叶のことを知ってるよ」 『聴きづらいだろうから座ろう?』と、ベンチに少し離れて座って話はじめました。 「少しですか?」 「そう、少しかな。……叶を虐めていた杉原 亮は俺の義理の弟だよ。」 「今日初めて知りました」 「俺の親父は叶の会社んちのある部門の支店長だよ。だから俺んちも金に関しては裕福な方だと思う」 『だから同じ学校でもおかしくないんだよ』、と笑った。 「俺と弟は腹違いの兄弟だから似ていない。顔で気付かないのは多分そのせいかな」 腹違いでなくても、似ていても気が付かなかったでしょう、私は人の名前と顔を覚えることが苦手ですから。 「ある日亮が学校で虐めをしていたって聞いた。……そのせいで、あいつそれきり部屋から出てこなくなった。まぁ、引きこもりやつ。でも、ドア越しに話したんだ。なんでも完璧にこなして、人を見下したヤツだから虐めたくなるだろう……って」 見下していたんですか? 私が……ですか。 「だから、俺は敵を取ろうと思って『笹倉 叶』をボコるために喧嘩ばかりして、ちょっとは強くなった」 「……では、の喧嘩の噂は」 「叶を虐めるためだよ」 公園の小さな灯りの先輩の表情は、あの困ったような笑顔でした。 「それで、どうされたのですか」 「ちょうど一年前くらいに、叶の転校した中学の文化祭で『笹倉 叶』がどんなムカつく奴か偵察しに行ったんだ。そしたら……」 先輩が真剣なトーンになりました。 「『笹倉 叶』は、『綺麗』だったんだ」 「……え?」 「キラキラしてた。まわりも輝いてた。眩しかったんだ」 「私が……『綺麗』ですか?杉原先輩はおかしいんじゃないですか」 こんなミックスな私が『綺麗』なはずがないです。 「自分の外見なんてナルシストじゃない限り、まわりが判断して自覚するもんだ」 杉原先輩がまた困ったように笑って、 「だって、俺が女の子にイケメンーとかカッコイイーとか言われて、自覚したくらいだし」 「……そうなんですか……?」 「叶はそう思わなかったみたいだったから、内心自信なくなったけどね」 「私は……人の顔を判断する感覚が麻痺してますから。所詮は中身もミックスです」 「勿体ないね、それ」 (……?) 「……何がですか?」 何が勿体ないのか分かりませんでした。 「それから、ちょっとずつ叶がどんな人間が知りたくなって、ウチの親父に聞きまくった。でもさ、笹倉グループの跡取りで、綺麗な外見くらいしか親父は知らなくて、……あと知ってるのは俺が見に行った叶本人。俺は喧嘩を今年入る前にやめたんだ」 『『綺麗』なものは壊したくないデショ』、と手を眺めて先輩は言いました。 「そしたら、今度は喧嘩売られるようになってっていって。払ってたら逆にボコられたよ。あれは償いだな」 償い……それは私にもいつか返ってきます。 (……利用してた杉原先輩から……) 「三年に入ってから出席日数が足りなくなったのは、ボコられて……痛くて起きられなかったからなんだよ」 『カッコ悪いよなぁー』と先輩は笑ってました。 「叶が俺を知って避けられたら嫌だから、俺が叶を避けてたのに、叶は知らないで傘貸してくるし、本当に参っちゃって。禁煙してた煙草吸いたくなるし、そしたら叶が止めにくるし」 「煙草は本当に身体に悪いので……」 「からかって、キスさせてくれたら禁煙できるかもって言ったら、本当にキスさせてくれるし」 ……はぃ? 「逆に晴れてる日は激しくしてくれ、なーんて可愛いこと言うし?」 ……えっ?! 「すぎはらせんぱいっ、あれ……キスなんですかっ?!」 「キス以外の何?ちゅー?口付け?接吻?まぁ俺はどれでもいいけどね」 「ええええええっっっ?!」 「あれ?……ひょっとしたら自覚なかった?」 「杉原先輩、だってあれは口淋しいって……」 杉原先輩は間を軽く空けたあとに唇に指を当ててにっこり笑った。 「あははっ!!ごちそうさまでした」 「あああああ……。最初からそう言って呉れないんですか!!」 「禁煙のため、これからもヨロシクね、叶」 ……これが償いなのでしょうか? 「叶、俺とのキスは嫌?」 「嫌ではない……と思います」 そうなんです、あれがキスだと自覚した今でも、嫌じゃなかったのです。 自覚したら、とても顔が熱くなるのを感じていました。 「……明日から隠れてお願い出来ますか?」 「そうだね、その方が楽しいかもね」

ともだちにシェアしよう!