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第40話
杉原先輩が話してくれたんです、なら私のこともも話しましょう。
慰めではないですが、私のことも話してしまったほうがいいです。
隠すのは、もう嫌です、疲れました。
私はそう決意しました。
「杉原先輩、私はどうやら変態なんです」
「え?」
私はうつ伏せになって肘を立て顎をのせて話しはじめました。
「私は虐められるの好きというか、……平凡な『笹倉 叶』がつまらないんです」
私は話し続けました。
「正確には構われる好きなのでしょうか?そういう生活に憧れてるっていうか……見た目もなんかその辺のミックスなペットみたいですし。私は日本人の外見が良かったです」
「………」
「お母さんも亡くなってますし、私のお祖母ちゃんみたいに丁寧な人と過ごしてしまったので、話し方もこうです。『男』ですが一人称『私』がやめられないですし、名前も女子みたいで大嫌いです」
「へぇ……」
「第一私は晴れてる日が嫌いなんです。晴れた日ばかり虐められて。私の心休まる日は雨の日だけだったんです」
「叶、ちょっとタンマ。……じゃあ、あの日傘貸してくれたのって本当に亮の兄貴って知らなくて、……ただの気まぐれだったわけ?」
先輩は気が付いたら泣き止んでいました。
「はい」
「見た目がカッコイイとかもホントに関係なくて?」
「はい」
「憧れてるわけでもなく?」
「はい」
「じゃ、なんで俺の名前知ってたの?」
正直に話してしまってもいいですよね……?
「偶然文化祭の催しものが杉原先輩と私のクラスが一緒で、隣の席のクラスメイトが『杉原先輩のクラスと同じなので不利です』みたいな話が聞こえたので。後は『杉原』という耳馴染みのある名字だったからかもしれません」
「えっ!?じゃまだ完璧に片想いなの?俺!?」
……んー。
……んーー。
……んーーー。
考えても今の私には、『好き』という感情はよくわかりません。
「先輩に『好き』と言われて、嫌ではないです」
「ん?じゃあ、俺のこと『好き』なわけ?!?」
「恋愛の『好き』は、まだ分からないです。経験したことがないので」
曖昧な言い方で本当に申し訳ないかなって思いますが……。
「杉原先輩のことは気になりますから、『特別』という感じでしょうか?」
「『特別』ね」
「なので、先輩は私を利用して恋愛してくれていいです。ですから先輩は今まで通りに『皆さんに内緒で私に刺激』をください」
やっと本音が言えました。
その事に安堵していたら、杉原先輩が今度は茫然としていました。
「杉原先輩?大丈夫ですか」
「……へぇぇぇ。じゃあ叶は、刺激をくれれば誰でも良かったわけ?」
「そうでもないと思います。杉原先輩を見たとき、気にはなっていました。私は今まで生きてきた中で初めて『特別』な人が出来たんですから」
そうなのです、私は『特別』もようやく分かるようになったばかりで、『恋愛』なんてまるで分からないです。
その感情が私には理解が出来ません。
「じゃあ、遠慮なく叶を利用させてもらおうかな?」
「……?はい」
杉原先輩の口調が変化したように聞こえて、私は自分の発言を整理してみました。
……んんんん?
私はまさか、……自分の首を閉めるようなことを言ったのでしょうか?
「叶を俺の禁煙に『利用していい』なら、ホントに俺としてはラッキーなんだけど?」
「……杉原先輩の禁煙に貢献出来るのでしたら」
あれ?
何時も優しい杉原先輩が怒っているように見えるのは気のせいでしょうか……?
「叶、忘れてない?俺はキミが『好き』で、ここは鍵が掛かってる部室『密室二人きり』だしね。邪魔者はいない」
えっ……?!
先輩が私の腕を掴み、強引に引っ張って私との距離を縮めてきます。
「つーかまーえた」
私は簡単に組み敷かれてしまいました。
そういえば杉原先輩が言っていたことを思い出しました。
『襲っちゃうかもよ?』
杉原先輩はそういう意味で……『本気』なんですかっ?!
「刺激が欲しいんだよね?叶は」
「ちっちちちがいます……」
「どう違うの?教えてよ」
私はまるで『まな板の鯉』のように、どうすることも出来ずにいると、杉原先輩はいきなり『あははは』っと大きな声で笑い出しました。
「叶は、やっぱし可愛すぎるっ!!」
ギュッと抱きしめられてしまいました。
「……えっ?!」
これだけですか?
「『フツーの男』だったら誰だって『好き』な子に『嫌われるようなことしない』って!!」
杉原先輩はイタズラをした子供のように、無邪気にまだ笑っています。
「……杉原先輩、やめてください。心臓に悪いです」
「ゴメンね。でも叶も期待させるから悪いんだよ?とりあえず期待させたお詫びに、キスさせてもらおうかな?」
私の唇を舌でペロッと舐めてから、唇を重ねました。
「俺は叶を恋愛対象の本命として見る。叶は俺を『特別』に見てくれてる。……これって『脈ありの片想い』だと思ってていいんだよね?」
そう言うと杉原先輩は今まで見てきた表情ではない真面目な顔付きになりました。
「俺は本気だからね?」
不敵に笑う先輩を魅せられて、私はとても格好良いと思ってしまいました。
人を格好良いと思うこともなかった私が、『生まれて初めて』そう感じたのです。
「覚悟しててね?」
私はどうやら杉原先輩の『恋愛対象に完全にロックオンした』と宣言されたみたいでした。
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