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第80話

(……シャワーのないお風呂は初めてです) お抹茶をひっくりかえしてしまった私は、お風呂に入るように案内されました。 少し気が引けるのですが、確かに購入したばかりの洋服をすぐにお洗濯をしてもらえるのは助かるので、嬉しいです。 ですが私はお風呂に入るほど濡れてません。 「お洗濯してもらえるのは嬉しいですが……」 「うちの風呂、結構凄いよ?」 どんなお風呂なのか気になってしまった私は今こうしてシャワーのないお風呂に入っています。 桶で浴槽のお湯を汲み身体を洗って浴槽に入ると、大きな水面に歪んだ私が写っていました。 ……杉原先輩はクリーニングに出すと外に出てしまいましたし、女性の小雪さんに裸を見られるのは絶対に嫌ですから、先輩が帰ってきてくれて着替えを借りるまではお風呂から出れません。 それにしても私の身体は華奢過ぎますね。 杉原先輩の着替えで私は帰れるのでしょうか? (木の良い香りがします……) この感覚は私にとって、とてもとても新鮮でした。 それから浴槽に入って、私は杉原先輩のことを考えました。 ……私は文化祭の催し物を決める時に、偶然杉原先輩の名前を知りました。 次の雨の日に杉原先輩と出会って、どんな人が知りたくなり見たくなり私は折り畳み傘を貸すという行為で杉原先輩に接触しました。 傘を折角貸してあげましたが、先輩は一度も使ってもくれなくて。 体育祭裏で煙草を吸おうとしているのを止めて、先輩は禁煙する為に口を重ねる行為を、私は刺激が欲しいが為に口を重ねる行為を要求しました。 そしてお互を利用しているはずでした。 それだけのはずなのに、先輩は私の上書きしたい過去を知っていて。 庇おうとして……助けようとしてくれたのに、悪い方向に進んでしまい……。 中学時代私を虐めていたリーダーの杉原 亮のお兄さんと知り、私は杉原先輩から逃げようとしたのに、先輩は真っ直ぐに向かってきてくれて、関係を取り戻してくれました。 私はもうこのときから、無自覚に杉原先輩を『意識』していたのだと今なら分かります。 こんなに真っ直ぐに私に接してくれる人は今までにたった一人、杉原 俊先輩だけでした。 ですから私の『特別』は杉原先輩しか居ないですし、あり得ないのです。 ……私は顎すれすれまでお湯に浸かりました。 (杉原先輩を知ってからまだ一ヶ月少々しか経っていないはずですが……) 私はまだまだ先輩を知らないですし、色々な先輩を沢山知りたい気持ちでいっぱいでした。

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