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終話

 ジャラリと重たい金属がぶつかり、擦れる音がする。豪奢な部屋にはふさわしくない音を発しているのは、ラウールの足首にはめられている枷から伸びる太い鎖の音だった。  ベッドに腰かけ、息を吐く。 (どうして、こうなった)  城まで送り届け、帰ろうとする前にキスをねだられた。ほんの少しと許して、情熱的な舌技を与えられ、彼を引きはがそうとする前に首筋に小さな痛みを感じた所までは覚えている。  気がつけば漆喰の壁に囲まれた、瀟洒な部屋の広いベッドの上にいた。足首には頑丈な枷がはめられており、柱と鎖で繋がれている。  武器類はすべて没収されており、衣服も脱がされていた。鎖の長さは部屋の中を歩き回るには充分だが、扉や窓には届かない。  眉間にシワをよせて窓を見る。差し込む日差しから、早朝だと判断した。おそらくここは、王城の一室だろう。自分の正体を知られたミクリアが、ラウールを捕らえるために誰かに命じたとしか考えられない。 (すぐに手配をしたにしては、手際がいい)  おそらく前から、準備をしていたのだろう。自分から城に送ると提案したはずが、罠にかかってしまったのかと苦いものを味わった。  鍵の外れる音がして、顔を向ければ扉が開いた。仕立てのいいシャツとズボン姿のミクリアが現れる。 「おはようございます、ラウール様」 「どういうつもりだ?」 「何度も言ったはずですが、快感に浸りすぎて覚えていませんか? 私はあなたを、最上の獣と、いつも称しているでしょう?」 「それが、どうした」 「獣には飼い主が必要じゃないですか。だから、そうなろうと決めたんです」 「なん……だと?」 「ほら、その顔。威嚇する犬にそっくりです。あなたを快楽の虜にして、私のものにする機会をうかがっていたのですが、正体を知られてしまったので強硬手段に出ました」 「これを国王はご存じなのか」 「ええ、知っていますよ。ただし、私の愛玩動物としてではなく、私専用の騎士として王城に来てもらえる事になったと伝えてあります」 「愛玩動物、だと?」 「そうでしょう? あなたは私の指や唇で愛される喜びを、全身で表現してくれるじゃないですか。私が望めば、自慰だって見せてくれる」  扉に鍵をかけ、ゆっくりと近づいてくるミクリアの笑顔には、淫靡な狂気が混ざっていた。ザワザワと全身の産毛が逆立ち、ラウールは彼を睨みつけた。 「怖い顔ですね。だけど、威嚇になっていませんよ。あなたの股間は素直ですね。期待に膨らんでいます」  指摘され、ラウールはうなった。股間に血が集まって、わずかに頭をもたげている。 「毎日、身動きができなくなるほど愛されていたのに、昨日はそれがなかったんですから、飢えているんじゃないですか? さあ、たっぷりと可愛がってあげます」 「必要ない」  ピシャリと言ったラウールに、ミクリアは目をぱちくりさせた。 「たまたま、おまえが初体験の相手だったというだけで、おまえじゃなきゃいけない理由はない。ほかに相手を求めれば済むことだ」 「ほかに……相手を?」  ヒクリとミクリアの頬が引きつり、顔色が青くなる。 「あなたには、私以外に抱かれたい相手がいるのですか? まさか、ディアス? それともほかの旧友ですか?」 「そうじゃない。俺が言っているのは商売で性を売っている連中だ」 「許しません。誉れ高いあなたが、どんな相手と行為に及んでいるのかわからない人とするなんて。いいえ、たとえ相手が高貴な血筋であろうとも、許しません。あなたの相手は私だけ。あなたは、私のものです」  きっぱりと言い切られ、あっけにとられたラウールは、泣く寸前の子どものように、まっすぐな青い瞳が潤むのを見た。グッとラウールの心臓が掴まれる。 「あなたは私のものです。私の獣……私だけの、至高の獣なんです……誰にも渡さない……誰を求めることも許さない」 「ミクリア……ん、ぅ」  払いのけられたはずが、ラウールはキスを受け止めた。両頬を包まれて、唇を何度もついばまれながら、繰り返される「私の獣」という声を聞く。舌が伸ばされ、上あごや頬裏を撫でられて、肌が官能に開いていった。 「ふ、ぅ……んっ、ん」 「渡さない……誰にも、あなたを譲りません。私を見て、私のためだけに淫らに舞ってください……ラウール様……いいえ、ラウール……私の騎士……私の麗しい獣」  頬にあった手が下がり、胸筋を掴まれる。揉みしだかれながら、親指で色づきをクルクルとなぞられると、体の奥に潜んでいた性感帯が浮かび上がった。 「ふ、はぁ……んっ、ぅう」 「ベッドで愛するのは、初めてですね……いつもイスの上やテーブルばかり。野外でした事も、ありましたけど」  両方の乳首をつままれて、指の腹でこねられれば得も言われぬ快感が訪れる。 (俺は、思った以上に調教されているらしい)  フッと鼻から息を漏らしたラウールは、快楽を享受したふりをして、抜け出す隙を見つけようと考える。 (従順に受け入れれば、油断をするはずだ)  足枷を外させるように誘導すればいい。駆け引きならば、経験豊富なこちらに分がある。 「何を考えているんですか?」  甘い息を口内に注がれて、強く乳首を押しつぶされた。 「ひぅっ、あ、ああ」 「私以外に意識が向かないように、たっぷりと愛してさしあげます」  舌で口腔をまさぐられれば、目覚めた体中の性感帯が表皮に現れ、肌が粟立つ。すっかり過敏になった両の乳首をこねくり回され、ラウールは太腿を開いた。中心が硬く凝って脈打っている。やがて先端からトロリと蜜が流れ出て、痺れるような悦楽に包まれた。 「ふ、ぅ……んっ、んぅ、あ、ぁ」  唇から舌が離れて、口が寂しくなった。乳首にミクリアの舌が移動する。ぷっくりと膨らんだ箇所にチュクチュクと吸い付かれて、心地よさに目を細めたラウールの胸奥が、熱く震えた。森の中で懸命に生きる可憐な花を見つけたような、あるいはほほえましい光景を目にした時のような感情が広がっていく。 (なんだ、これは)  分析しようとすれば、乳首に軽く歯を立てられた。 「はぅ」  刺激に考えが霧散する。出ない乳を吸われるごとに、心が熱さを増していった。 「ふ、ぁ、ああ……あっ、あ」  指が何かを掴みたがっている。ラウールはシーツを握りしめて下唇を噛んだ。ブルブルと小刻みに震えていると、体重をかけられて後ろに倒れた。ベッドに沈められたラウールは、服を脱ぎ棄てるミクリアの姿に吐息を漏らした。  均整の取れた体つきは、神殿にある天使像に似ていた。なんて美しいのかと、視線が吸い込まれる。コツンと怒張した物に硬い物が当たって、見ればミクリアの欲だった。清らかで端正な容姿の彼に、似つかわしくない欲望の象徴と淫靡な気配に、ラウールはクラクラした。  倒錯的な光景に興奮が増していく。 「愛しています、ラウール……私の獣……あなたは、私のものだ」  双方の欲望を重ねて握られ、先端を擦られれば全身の神経が甘美な痺れに酔いしれた。 「は、はぁあう……っ、く、ぁ、ああ……あっ、ぁ」 「もっと声を聞かせてください……私だけが知っている鳴き声を、もっと、もっと……ああ、腹筋が波打っていますよ……胸筋も膨らんで、乳首が可憐に震えています。気持ちがいいんですね」 「ふっ、ぁ、言うな……っ、あぁ」 「嫌です。あなたがどれほど私に感じてくれているのか、確かめたいんです」 「ぁ、んっ、見ている、だろう……がっ、ぁ」 「より深く意識したいんですよ。見ているものを言葉にして、再確認しているんです。あと、あなたにも認識してもらいたいので」 「っ、聞かされなくとも……っ、自分の体のことは、わかる」 「じゃあ、ご自身で言ってください。見た目ではわからない快感の状態を、詳しく」  首を振ったラウールは、乳首をきつくつねられて背をそらした。 「ひ、ぃいっ!」 「ほら、教えてくださいよ、ラウール。あなたの主人である私に愛されて、どうなっているのかを」 「だ、れが……主人、ぁ、ああっ」 「私です。私は王子で、あなたは騎士だ。そして私の愛しい獣でもあるんです……この体を、淫らにしつけたのは私でしょう? いやらしい要求を、あなたはいつも受け入れて、従ってくれた。私を主だと認めているからではないのですか?」 「違、ぁ、ああっ」  擦れる亀頭の存在が体中を支配する。陰茎の根元がムズムズして、蜜嚢がもどかしいと訴えている。いじられている乳首は刺激に喜び、もう片方は愛撫に飢えていた。 「ひ、ぁ、ああっ、あ……んぁ、あ……は、はぁ、ああう」  筋肉を躍動させて、甘く激しい刺激に堪えようとするも抑えきれない。足の指でもシーツを掴み、身もだえるラウールの脚の間で、ミクリアは恍惚の笑みを浮かべた。 「もっともっと、乱れてください。ほら、ラウール……あなたのいやらしい液で、私の指はすっかり濡れてしまいましたよ。これだけ濡れていれば、可憐なあなたのすぼまりに触れても、傷つきませんね」  腰を引いたミクリアの濡れた手で尻の谷をまさぐられて、すぼまりをつつかれる。ヒクリと反応した口に指を沈められ、浅い場所を出入りされれば股間の疼きが強くなった。 「は、ぁ、ああ、あ……ああっ、ぁ」 「自分の体の状態がよくわかるのであれば、私が感じている以上に理解していますよね。指に吸い付いてくるここで、どれだけ気持ちよくなれるのか。思い出してください。私に貫かれて、グチャグチャにかき回される感覚を」  グッと蜜嚢の裏を押し上げられて、ラウールの腰が跳ねた。 「はひっ、ひ……っ、そこ、ぁ、ああっ、あ……あ、は、ぁあ」 「ラウールの好きな場所のひとつです。ほかにも、いい場所が色々あるでしょう? ねぇ、ラウール。たくさん見つけた場所の中で、どこが一番好きですか?」 「ふ、ぁううっ、く、ぅん……っ、あ、ああ」  秘孔を指でほぐされながら蜜嚢を揉まれて、ラウールは膝を折って太ももを開いた。腰を浮かせてもだえるラウールの内壁が蠕動する。 「欲しいんですか? 奥に。いいですよ。たっぷりと味わわせてあげます」  膝を掴まれ、切っ先を秘孔の口にあてがわれて、ラウールは喉を鳴らした。貫かれる衝撃に耐えるために目を閉じれば、グッと熱情を押し込まれる。 「ふっ、ぅ、う……は、ぁ、ああ」  ゆっくりと挿入された熱の傘に、入り口がキュッと吸い付く。浅く抜き差しされて、張り出しに孔口をめくられれば、陰茎が犬の尾のように揺れた。 「可愛いです……ラウール。とても、愛らしい……愛しています、あなたを。ラウール、じっくりと、私の形を教えてあげます」 「ぁ、うぅ……ぐ、ぉふ……っ、ん、ぁあ」  ジリジリと進まれて、ラウールは腰を振った。肉壁の奥が早く早くとねだっている。 「んっ、んん……は、ぁあう……く、ぅう」 「欲しいんですね、ラウール。私の名を呼んで、求めてください。そうしたら、ここを思い切り可愛がってあげます」 「ひぐっ、ぁ、はぁああ」  ズンッと深く突き上げられて、奥の扉が開かれた。かと思うと、すぐに引かれて浅い場所に戻られる。一瞬だけの刺激はラウールの欲望を燃え立たせ、理性をグズグズに溶かしてしまった。 「ぁ、ああ……っ、奥、に」 「私の名を呼んで、ねだってくださいと言ったはずです。さあ、ラウール」  グッと歯を食いしばってから、ラウールは胸を喘がせながら望まれた言葉を口にした。 「っ、奥に……ミクリア……欲しい……っ、早く、突いてくれ」  チュッと軽く胸筋の谷にキスをされ、膝裏に腕を入れられて尻を高く持ち上げられる。期待に肉壁が波打って、ラウールはシーツを強く握りしめた。 「いきますよ、ラウール」 「んっ、ぁ、あぐっ、ぅ、は、ぁあああっ」  最奥を貫かれ、ラウールは首をそらして声を放った。ガツガツと肌のぶつかる音がするほど深く激しく突き上げられて、愉悦を味わうラウールもまた、体を揺らした。腹筋を使い、太ももでミクリアの体を締め付け、脚を絡めて全身で彼を求める。 「ラウール、ああ、ラウール」  速度を上げたミクリアのひと突きが、ラウールの媚肉と化した肉壁をえぐる。 「ひ、ぃあぁああああっ!」  目の奥で白い光が弾けて、ラウールは極まりを迎えた。ビュクビュクと蜜嚢に溜まっていたものを吹き出しながら、痙攣するラウールの媚肉をミクリアは攻め続ける。 「ぁひっ、ひ、ぁあうっ、や、ぁああ」 「まだ、もう少し……私が、まだです……だから、ねぇ、ラウール」  絶頂の快感を引き延ばされて、ラウールは首を振った。気持ちよすぎておかしくなってしまいそうだ。 「ぁ、あああっ、ミクリアぁ……っ、ああ、ああっ、は、ぁあう」  悦楽の浮遊感に、余韻を吹き出す陰茎が揺れてミクリアの腹に擦れる。とろけそうな心地に意識を手放しかけたラウールは、内側に熱液を叩きつけられた。 「はひっ、ぁ、あ……あっ」  内側で跳ねた陰茎からほとばしるものを、搾り取るように媚肉が収縮する。くっきりと脳裏に描かれるミクリアの欲の形を味わいながら、ラウールは弛緩した。 「ふ……はぁ、あ、あ」  息を震わせるラウールの、大きく上下する胸にミクリアの頭が乗った。甘えるように乳首を吸われ、もう片方を弄られて、甘美な陶酔にたゆたうラウールは、金色の髪に指を絡めた。無意識に撫でるラウールに、ミクリアが幸せそうに口の端を持ち上げる。 「ああ……ラウール。愛しています、あなたを。だから、もっともっと、私を感じて……ねぇ」  果てたばかりの柔らかな欲望で、ゆるゆると内側を擦られる。淡い刺激はゆりかごのように心地いい。目を閉じて深い呼吸を繰り返し、しっとりと汗で濡れた肌に残る劣情の余熱を味わうラウールは、心がほっこりと満たされていることに気がついた。 (この感覚は、知っている)  いつだったか、遠い昔に味わっていると、記憶の端を探った。 「ラウール、私の騎士……私だけの、美しい獣……あなたは、私のものです……ラウール」  繰り返される夢見心地の声が、記憶の端と繋がった。そこから糸を手繰り寄せ、感覚の元を探ろうとする。 「ラウール、ラウール」  首を伸ばしたミクリアの唇が顎に触れる。脚を持ち上げられて、体を丸められ、キスをされた。繋がりが深くなる。 「んっ、う」  じゃれつく唇を受けていると、懐かしさに包まれた。 (なんだ、この感覚は)  答えを探すラウールの肌に、緩慢な愛撫が与えられる。熾火となった官能に揺られる意識が、眠りと覚醒の間を行き来した。 「ラウール……私のラウール」  熱っぽい声に艶が含まれ、甘える舌が性的な意図を発する。くすぶっていた獣欲を引き戻されて、ラウールは喘いだ。 「ぁ、ああ……んっ、ふ……ぅう」 「ラウール、ラウール」  名を呼ばれ、キスを受けて体中を撫でまわされた。いつもの焦らして楽しむ行為ではなく、ひたすら慈しまれている。 「んぁ、あ……ミクリア、ぁ、あ」 「なんですか? もう終わりなんて言いませんよね。まだまだ体力は余っているはずです。いつもはもっと激しく、たっぷりと乱れていますし」 「違う……いつもとは」 「抱き方が、ですか? だって、今はベッドの上じゃないですか。こうやってベッドの上で抱くのは、初めてだからですよ。調教めいたものではなく、きちんと愛したいと思うのは自然でしょう?」 「自然? クッ……ははっ」  笑うラウールに、ミクリアがきょとんとする。急に子どもじみた表情になった彼を見て、ラウールはますます笑い声を大きくした。 「どうして、笑うんですか」 「いや……自然? 自然と言ったな。これのどこが自然なんだ? 薬を盛って俺をさんざん犯し尽した挙句、毎日のように犯しに来た上に、薬で気絶をさせて監禁し、自分のものだと言いながら犯す行為の、どこを自然と言っている?」  ミクリアを胸の上に乗せたまま、ラウールは起き上がった。ミクリアがラウールの体から抜ける。  彼よりも大きくたくましい体を持ちながら、いくら薬を盛られたからといって、今まで好き勝手に犯されていた自分も変だった。 (人恋しかったからか? 破壊衝動を性欲に切り替えられると知って、試してみたくなったからか。あるいは、ミクリアが王妃に似ているからか)  考えながら、ミクリアの返答を待つ。ミクリアは不服と苦味に顔をゆがめた。 「薬を盛ったのは、そうでもしなければラウールを押し倒すなんて、できないからです。あなたを助ける方法を見つけたと思った。あなたを快楽の虜にして、私のものにしたかった。いいえ、ラウール。あなたは私のものだ。私が王子であると知っていたから、おとなしく抱かれてくれていたのではないのですか?」 (どうだろうな)  彼が王子だから、従っていたのか。今まで味わったことのない快感を与えられ、悦楽の毒に浸って欲望に従っただけなのか。危険な情動を性衝動に変えられるのなら、また王都に戻れるとでも考えたのか。  どれも正解なようで、間違っている気もする。膝の上で見上げてくるミクリアの青い瞳に既視感を覚えて、ラウールは目を細めた。 「なぜ、王子であれば俺がおまえのものになるんだ」 「約束をしました。覚えていませんか? あなたは私のものだと、言ったじゃないですか」  両頬を包まれて、唇を重ねられる。舌で上あごを擦られて、優しく陰茎を擦られると口内と下肢の快感が波紋となって全身に広がった。 「んっ、ふ……ぅ、むぅ」  淡い刺激に目を閉じて、ゆるゆると広がっていく甘美な痺れを受け入れる。徐々に強くなっていく官能は、何かにしがみついていなければならないほど激しくなって、ラウールは膝を震わせてミクリアを抱きしめた。勢いで倒れ込み、ミクリアを体全体で包み込む形になる。 「んっ、うぅ……ぅん、ふ……っ」  ブルッと身震いして、ラウールは陰茎を震わせた。体を揺らし、快感を追いかける。細胞のひとつひとつが泡となって喜悦に弾け、脳髄が恍惚に包まれる。 「んんっ、ん……ふ、ぅう、んっ、んんっ」  蜜嚢から次々と淫猥な蜜が生み出され、このままでは空っぽになるのではと疑うほどに、淫らな液がこぼれ出る。ヒクヒクと秘孔がうごめいて、刺激を求めた。腕の中にミクリアを包む形になったラウールは、先ほどから探していた記憶を見つけて、ニヤリとした。 (そういうことか)  ミクリアが、ラウールは自分のものだと言う理由に行き当たり、行為の意味を把握して、ラウールはクックッと喉を鳴らした。いぶかるミクリアから顔を離し、獰猛な笑みをひらめかせる。 「なるほど、俺はたしかに約束したな。おまえのものになると」 「ラウール」 「だから、コレか。まさか、抱かれるとは想像もしていなかったが……そういうことか」  笑いながら、自分よりも細く締まっているミクリアの腰をまたぎ、彼の陰茎を掴んで尻の間に挟んだ。 「ならば、責任を取る必要があるな。ミクリア……いや、我が主。騎士ラウールは、改めて忠誠を誓おう」  宣言後、若い欲望を待ちわびている媚肉に呑み込んで、ラウールは勇躍した。驚愕するミクリアの青い瞳に、幼い日の彼を重ねてほほえみながら、全身に妖艶な喜びを広げていく。 「くっ、は、あ……ああっ、んっ、ぅ、くう……っは、ぁ」  自分から求めて動くのは初めてだが、さんざん突かれているので自分の求める場所も、ミクリアが心地よくなる角度も知っている。腰を回しながら上下して、媚肉のすべてでミクリアの欲を愛撫すれば、胸筋を下から掴まれ、指の股で乳首を挟まれて、揉みしだかれた。 「あっ、ぁ、ああっ、あ……んっ、くぅ、あっ、ああ」  硬く滾ったミクリアで、奥をえぐるように腰を落として精を漏らす。飛び散ったものでミクリアの腹が濡れた。キュウッと絞まった内壁に促され、ミクリアも欲を解放した。 「は、ぁ」  息をつき、ゆっくりと倒れ込む。腕の中の秀麗な青年にほほえんで、ラウールは額を重ねた。 (俺は、約束した)  竜退治に向かう前に、あどけない少年に約束をしたのだ。絶対に生きて帰ってくると。竜を退治して無事に帰還し、次代の王に心身共に差し出すと。だから必ず帰ってくると、不安に揺れる青い瞳に告げたのだ。 「俺を、確実に自分のものとするために、犯したんだな」  竜退治の後に得た、獰猛な己を隠す事ばかりに気が向いて、約束をすっかり忘れていた。 「犯したのではありません。私は、あなたを調教したのです。帰還したあなたは、母に言いました。王宮を去るのは、自分は獣になってしまったからだと。魔獣と同じものに代わってしまった。そうでなくては、竜を退治などできなかった。魔獣は人の中にいてはいけない。だから森に住むと」  うなずいて、ラウールはまっすぐに見上げてくる、よどみのない青い瞳を見返した。 「獣なら、調教をして飼えばいい。そのために扱い方を勉強しました。魔獣使い、という職業について。訓練もしました。そして勇んで会いに行けば、あなたは普通の人間だった」 「見た目はな」  愛おしげに目尻をとろかせて、ミクリアは続けた。 「あなたが、自分は魔獣になったと言った理由を知った私が何を提案し、どう行動をしたのかは、説明する必要はありませんよね」 「ああ」  立派になったものだと、ラウールは胸を熱くさせた。彼の命に逆らう気が起きなかったのは、快感に溺れたわけでも獰猛な情動を性欲で消化したかったわけでもない。すっかり忘れていた約束が、無意識下にあったからだ。 「あなたは私のものです、ラウール。私の騎士で、私の愛しい獣です」  切なく揺れる青い瞳に、ラウールはニヤリと白い歯をひらめかせた。 「獰猛な獣を、しっかりと飼いならす自信があるんだな?」 「ええ」  自信満々に答えたミクリアに、ラウールは「わかった」と体を起こした。 「なら、まずは足枷を解いてくれ。それから改めて、抱かれるとしよう。おまえ……いや、ミクリア様の騎士であり、獣として」 「様、はやめてください。今まで通り、ミクリアで。ああ、でも……主と呼ばれるのは、いいかもしれません」 「了解した。我が主、ミクリア。存分に可愛がってもらおうか」 「喜んで」  カチリと足枷の外れる音と共に、ラウールは見えない首輪に繋がれた。 了

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