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第1話 幼なじみとの再会

 拷問部屋に通されると、フードを被った見慣れない背の高い男が入って来た。書記などを引き連れ、ずいとリュカの目の前に来る。 「本日付けでお前の担当に任命された。今日から私がお前の異端審問をする。嘘をつかず、仲間を大勢告発し心を入れ替えるなら、ここから出してやろう」  そう言ってフードを取った男を見て、声を上げそうになった。幼い頃に別れの言葉も言えずに離れたジェラルにそっくりだったからだ。焦げ茶の短い髪に鋭く光る灰がかった薄茶の瞳。以前より痩せたせいで精悍さが増したように見える。 (ジェラル……。ジェラルなのか?)  尋ねたいが傍にはほかの者もいる。もし親しげに話しかければ、この男まで魔女の容疑が掛けられてしまうだろう。 (それはダメだ。ジェラルかもしれない人にそんな迷惑をかけられない。こんな苦しみ、僕だけで充分だ――) 「今日の責め苦は鞭打ちだ。上着を脱いで柱にしがみつき、背中をこちらに向けろ」  明るく優しかったジェラルとは思えないほど、辛辣な声が聞こえてくる。鞭は一度に何カ所も傷を与えられるような構造だった。廷吏から鞭を手渡された審問官が、リュカの背後に立つ。 そしてヒュッと鞭を振り上げる音が聞こえ、はじめの打撃が与えられた。 「……ッ!」  リュカの白い背中に、ミミズ腫れのような傷が何本も出来る。背中が焼け付くようだ。耐えきれず、柱にしがみついて痛みを誤魔化すしかない。 「さあ、白状しろ。仲間の居場所を言うんだ。ほかにも知っていることを全部話せば慈悲を与えてやろう」 「知らないんです、なんのことだかまるで分からないんです……!」  鞭打たれる方向に体を動かし、少しでも痛みを和らげようとする。それを追うように鞭がしなる。そうしているうちに、あることに気付いた。 (さっきほど痛く……ない)  はじめの何回かひどく鞭打たれたあと、振るう音は大きいのに、体に当たる衝撃が軽くなっているのだ。 (もしかして、手加減している?)  もし刑を執行している者が以前の赤い法衣の男なら、はじめの痛みのまま鞭打ちは続行されていただろう。だがこの審問官は、急に力を弱めはじめた。すでに出来た傷にあたらないように、音だけを派手に鳴らして無傷なところを選んで鞭を軽く打っている。 (まさか本当にジェラルで、手加減してくれている?)  拷問の厳しさに、自分は痛みすら麻痺してしまったのだろうか。それとも、この鞭打ちは幼なじみのジェラルが加減してくれているのだろうか。 どちらでもいい、早く今日の責め苦が終わってほしい。  鞭の唸り声と、それが皮膚を叩きつける音だけが、拷問部屋に鳴り響いていた。

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