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第2話 ジェラルの介抱

 鞭打ちをされたあと、リュカはよろよろと歩き塔に引き立てられた。昨日のように後ろ手で縛られ、部屋に着くと脚にも縄がかけられる。夕方になると、わずかな食事が与えられた。育ち盛りのリュカには到底足りないが、不自由な手足で這いつくばってでも食べないわけにはいかなかった。  あとどれくらい、こんな日が続くのだろう。自分はどれだけ耐えることが出来るのだろう。  ガチャ、と独房の鍵が開く音がして、見覚えのある者が入って来た。今日鞭打ちをおこなった審問官だ。見れば見るほど、幼なじみのジェラルに似ている。審問官はしゃがみ込むとリュカの縄をほどき、耳打ちした。 「リュカ……。今日は鞭打ってすまなかった。怪我はどうなっている?」 「ジェラル? やっぱりジェラルだったの!?」  驚きのあまり目を(みは)り大きな声を出すと、ジェラルがリュカの口に手をあてる。 「しっ、静かに。ここは人があまり来ない塔だとはいえ、だれかに聞きつけられたら一巻の終わりだ。……立てるか?」 「う、うん」  そう答えるが、長い時間拘束されていたせいか足元がふらつき、たたらを踏んでしまった。 「フラフラしているな。……俺のせいか」  ジェラルの長いローブに包み込まれるように抱きとめられる。 (えっ……)  瞬間、ドキリとした。彼の胸板はリュカよりも分厚く、腕にも固い筋肉が付いている。それに温かい。酷く尋問された反動だろうか、優しく抱きしめられたのは母と別れて以来だからだろうか、ずっとこうして欲しいとさえ思えてしまう。 (なに考えているんだ、僕!) そう自分を叱咤したとき、 「相変わらず軽いな……」 と感心するようなジェラルの声で我に返る。だが、リュカの鼓動は激しく鳴り続けたままだ。それを誤魔化すように話しかける。 「ジェ、ジェラルは大きくなったんだね」 「ああ、修道院は労働も結構あったからな。俺は筋肉がつきやすい体質のようだ」  ジェラルは腰に巻き付けた袋から膏薬を取り出した。 「背中を見せろ。今日出来た傷に塗ってやるから。……ああ、なるべく手加減したつもりだったが、ひどいことになっているな」  痛ましそうに顔を歪める男は、幼い頃からの思いやりをなくしてはいない。鞭打ちを手加減していると思ったのは、リュカの勘違いではなかったのだ。膏薬は傷に染みないものだった。背中に斜めに走る傷が少し和らいでいく気がする。 「いいよ、ほかの人だったらもっと痛かっただろうし、きみの仕事だものね」 「少し前に修道会から派遣されてきて、今日お前の担当官になったと知って驚いた。昔、一緒に遊んだお前を鞭打つあいだ、心が血を流しそうだった」  苦痛に耐えるように、ジェラルが顔を歪ませる。優しい彼のことだ、きっと苦しみながらリュカを拷問したのだろう。

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