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第3話 突然の口づけ

【中略】  翌日の拷問も、ジェラルはかなり手加減してくれた。とはいってもやはりつらく苦しいものに変わりはなかった。 一日が終わり、塔にある部屋でうとうととしているとジェラルが隠れるように忍び込んできた。 「気は変わったか? リュカ。魔女だという証言をする気になったか?」  ううん、とリュカは首を振る。 「嘘は言えない。先生が、嘘はいけないことだって言っていたから。それに魔術なんて[[rb:行 > おこな]]っていないし、サバトにも参加していない。なにを悔やんで改めることがあるのか分からない。間違っているのはここのほうだ」 「……お前、そんなことを拷問部屋で言うと俺がいても耐えがたい目に遭わされるぞ」  ジェラルが非難するような顔になる。それでもリュカは自分の主張を曲げる気にはなれなかった。 「僕に薬草学を教えてくれたエルヴェ先生は、見ず知らずの貧しい人や困っている人を助けていた。僕も母のことでとても世話になった。毎日神様に祈っていた。立派な人だよ」  ピク、とジェラルの眉が(しか)められる。なるべくリュカの目を見ないように、顔を背けて語りはじめた。 「エルヴェ・ランスだったか。その者なら、最期まで自分を魔女だと言わなかったせいで拷問死したと記録にあった」 「! 先生が……」  その先の言葉が続かない。頭の中には、いつも優しく朗らかに自分を導いてくれた師匠の笑顔しか浮かばなかった。思わず十字を切り、(ひざまづ)く。 「先生、どうか安らかに……」  祈りを捧げていると、ジェラルが苛立ったようにリュカの肩を揺すってくる。 「ジェラル?」 「リュカ、他人事じゃないんだぞ。お前も全く同じ状況にいる。俺が担当でなければ、とっくに殺されているところだ。お前のために忠告しているのが、どうして分からない?」  間近で睨んでくる彼は怒りのせいか顔全体が赤く染まって恐ろしいほどだった。リュカは言葉を失った。ジェラルは真剣だ。憤るほどにリュカの身を案じてくれている。 (どうしてここまで心配してくれるんだろう……?)  次の瞬間、ジェラルの顔が迫ってきた。「ジェラル?」と呼ぼうとしたその時、唇が押しつけられた。 「んんっ……」  固く閉じたリュカの唇を、ジェラルが指を使って開かせる。と同時に生温かい舌が口腔に入り込み、リュカのものに絡んできた。ジェラルの唾液が流れ込んできて、頬の内側や歯の根元を念入りに舐められる。口の端から自分のものともジェラルのものとも分からない唾液がつうっと溢れてゆき、粗末な衣服を濡らした。 (なにをしてるんだ、ジェラル? もしかしてあんまり言うことを聞かない僕への腹いせなのか?)  今まで生きてきて、こんなことをされたのは初めてだった。キスの変化形だということくらいしか、リュカには理解出来ない。子供の時にしたのは母や父との軽い口付けだったし、師匠の家ではまったく禁欲していたからだ。 「ジェ、ジェラル……」  唇を解放されると息を止めていたことと唾液が喉の奥に入ってきたせいで、ケホケホと咳き込む。 「リュカ、俺は、俺はお前が……!」  ジェラルが、喘ぐように苦しそうな声を出す。片方の手でゆるく波打った金髪を撫でられながら、今度は唇に付いた唾液を拭うように舌で舐められ、その行為は終了した。 「ジェラル……?」  少し体を震わせたリュカを憐れむように見つめたジェラルが、出口のほうへと向かう。去り際、押し殺したような声が聞こえてきた。 「今後お前が改悛(かいしゅん)しなかったら、俺はもうお前を庇いきれない」

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