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やっぱり好き
維摩柾(ゆいままさき)は不機嫌な顔で登校した。
二ノ宮高校、2年1組。
どこにでもいる、ごく普通の高校生だと自分では思っている。
周囲はどうやらそう思ってはくれないようだが。
「おはよー柾。今日も相変わらず機嫌悪そうだね」
教室に入ると、クラスメイトの新田俊樹(にったとしき)が声をかけてきた。
柾は不機嫌そうにしながらも俊樹を見る。
「いつものアレだよ」
そして不機嫌そうに答えた。
俊樹は柾の様子を見て同情めいた笑みを浮かべる。
「まーたケンカ売られたの?で、原因はまた柾の顔?」
「俺の顔ってそんなに凶悪か?」
柾は疲れた顔で俊樹を見た。
「とっても凶悪」
俊樹は柾の問いににっこりと答える。
少々きつい感じだが、まあまあの美少年だ。
笑うときつさが消えて人懐こい顔になる。
そんな俊樹ににっこりと肯定されて、柾は大きなため息をついた。
何故か柾は他校の生徒からやたらと喧嘩を売られる。
そしてその理由は大抵「顔が気に入らない」と言うものだった。
俊樹が言うように、自分はそんなに凶悪な顔をしているのか。
確かに、視力が悪いくせに頑なに眼鏡やコンタクトをしないせいで目つきは悪いかも知れない。
しかしそれが喧嘩の理由になるとも思えなかったのだが。
そして、不機嫌なのはそれだけではない。
もうひとつ原因があった。
「ケンカはまあいつもの事だからいいんだ。負けた事もないし。今一番の悩みは⋯⋯」
ため息まじりに言おうとした時だ。
「おはよー。何話してるの?」
やたらと綺麗な顔の少年が、柾と俊樹の間に入って来た。
柾は急に口をつぐんで、その少年を睨む。
少年の名前は藤高皓(ふじたかあきら)。
柾の幼なじみでもある。
「こいつだよ」
柾は大袈裟にため息をついて、俊樹を見た。
俊樹は困ったような笑みを浮かべる。
「俺がどうかしたの?何の話?」
「柾ってばね、皓が一番の悩みなんだって」
黙り込んだ柾に代わって俊樹が答えた。
「ちょっ、言うなよ」
柾は驚いたように俊樹を見る。
そして視線を皓に移した。
目線の高さはそう違わない。
やたらと綺麗な顔。
そんな皓は、すっと目を細めて意地の悪い笑みを浮かべた。
「俺が、柾にとって悩みなワケ?そっか⋯⋯今夜ちょっとお邪魔するからね」
「マジかよ⋯⋯」
皓の言葉に、柾は蒼白になる。
それを見た俊樹はわりと楽しそうにしていた。
朝礼前の予鈴が鳴る。
柾を残し、俊樹と皓は自分の席に戻って行った。
柾は再び大きなため息をつく。
皓とは保育園からの幼なじみで、いつも2人で一緒に遊んでいた。
その頃は皓のほうが背も低くて体も小さくて、柾は皓の保護者のような感じだった。
それがいつからだろう。
皓が自分の身長に追いつき、体格も自分に負けないくらいに成長したのは。
いつのまにか皓は自分の庇護など必要ないほど成長していた。
そして柾は皓の変化を見て、自分が皓に対して抱いていた感情に気付いてしまったのだ。
皓の保護者気取りでいたのは、皓に他人を近付かせないためだ。
自分だけを見てほしかった。
皓を独占したかったのだ。
この気持ちを皓に知られる訳にはいかない。
けれど皓はそんな事など知らずに柾に近付いて来る。
今はまだ辛うじて理性を保っているが。
柾は登校した時と同じく不機嫌な顔で帰宅した。
朝、皓が言った言葉のせいだ。
皓は今晩、必ず柾宅を訪れるだろう。
何しろ、皓の家はすぐ近所だ。
鬱々と夕食を食べ、入浴を済ませ、早々と部屋にこもった。
ベッドにうつ伏せてそのまま目を閉じる。
2人きりになっても理性を保てるだろうか。
柾にはその自信がなかった。
そして夜8時を回った頃、皓がやって来た。
家族ぐるみで付き合いがあるので、夜に遊びに来たりしても柾の両親は何も言わない。
そのまま皓が泊まって帰る事もよくあるからだ。
「柾~」
にこにこと不敵な笑みを浮かべて、皓が部屋を覗いた。
柾は相変わらずベッドにうつ伏せていたが、皓の言葉にびくりと体を震わせる。
「で。俺が柾の悩みってどういう事?」
皓はうつ伏せたままの柾に訊いた。
しかし、柾は答えようとしない。
答えられる訳がなかった。
皓を見てると欲情しそうになってしまうなんて、口が裂けても言えない。
「答えないと帰らないからね」
皓はそう言うと、ベッドの端に腰をおろした。
「答え聞いたらお前、絶対後悔するぞ」
柾は顔を上げず、うつ伏せたまま答える。
「何で?柾は俺の事好きなんでしょ?」
皓は何でもない事のようにそう言うと、軽く足を組んだ。
その言葉に柾は飛び起きる。
「何でっ」
「何年幼なじみやってると思ってるの。柾ってすぐ顔に出るからわかりやすいよ」
皓はくすくす笑いながらそう言った。
柾はそれを見て大きくため息をつく。
「バレてたのかよ⋯⋯」
「うん。バレバレ」
「⋯⋯軽蔑、してるんだろ?」
柾は、にこにこする皓の顔色を伺った。
「何で軽蔑するワケ?俺だって柾の事、ちっちゃい頃から大好きだったんだよ?」
皓はいつものにこにこ顔で答える。
柾はそんな皓の肩に手を置くと、そのままベッドに押し倒した。
綺麗な顔が柾を見つめる。
そのまま皓の唇に自分の唇を押し付けた。
皓の顔が驚きの色に染まる。
唇を離した後、柾は皓を見つめた。
「俺の“好き”ってのは、こういう意味だぞ?」
そしてベッドに押しつけたままそう言う。
すると皓はにっこり笑った。
思いがけない力で起き上がると、今度は柾を押し倒す。
「偶然だねえ。実は俺もそういう意味で好きだったんだよ」
にっこり笑ったままそう言うと、今度は皓が柾の唇を奪った。
柾は驚いたままそれに反応できない。
気が付くと、息もできないくらいに激しく舌を絡め取られていた。
皓は柾の口内を思う存分犯した後、ゆっくりと唇を離す。
「そうとわかれば、もう我慢する必要ないよね?」
皓はそう言って再びにっこり笑った。
やっぱこいつ綺麗な顔してるよなぁ、と柾が感心していると。
「あっ」
思いがけない部分を触られ、思わず上ずった声をあげてしまう。
皓の手は服の中に入り込んで柾の胸を撫でていた。
指先で乳首を探し当て、そこを弄ぶように転がす。
「ちょっと、皓っ、あっ」
何とかして体勢を入れ替えようとするが、体重をかけられていて動けなかった。
「今更やめるなんて言わないよね?」
皓はにっこり笑って柾を見る。
「そ、そうじゃなくてっ、俺こっちはちょっと考えてなか⋯⋯っ」
柾は必死で逃げようともがく。
皓に対して「抱きたい」と思ってはいたが、「抱かれたい」と思った事はない。
「大丈夫。気持ち良くしてあげるからさ」
皓はにこにこ笑ってそう言うと、柾の股間に手を当てる。
どうやら立場を交代する気はないらしい。
皓の手の動きに、柾の体がびくっと反応した。
「ちょっと、皓っ」
柾は真っ赤な顔で皓を見つめる。
「そんな顔しても煽られてるようにしか見えないよ?柾って普段はクール系イケメンなのに、焦ってる顔は幼い感じですごい可愛いんだよね~」
皓は柾の抵抗にもめげず、にこにこ笑ってそう言った。
Tシャツはめくられ、ほんのり上気した肌が露になっている。
「何だよそれっ」
柾は身を捩って逃げようともがいた。
しかし皓に敏感な部分を触られるたびに力が抜けてしまう。
「ここももう硬くなってるよ?」
皓はからかうように言いながら、ズボン越しにそこを握った。
「あっ、やめろってっ」
柾はその手を掴んで剥がそうとする。
「今更何言ってるの。俺は我慢する気ないからね?」
柾の懇願を笑顔で却下すると、ズボンを下着ごと脱がせた。
「皓っ、やめ⋯⋯っ」
「こんな状態で止めたら、そっちのほうが辛いと思うよ?」
皓は、今度はにやにやと笑いながらそこに手をやる。
手の平で包むようにして摩擦すると、それはすぐに硬さを増して勃ち上がった。
「あっ、皓っ、やだ⋯⋯」
柾はぎゅっと目を閉じて快感をやりすごそうとする。
抱きたいと思っていた相手に逆にこういう目に遭わされるのは、屈辱に近いものがあった。
皓はそれを知っているかのような笑みを浮かべて柾を見つめている。
そして、体をずらすと柾の股間のものを口に含んだ。
「やっ、ちょ、皓、やめろ⋯って」
柾は拒絶の姿勢を崩さない。
しかし、皓の舌がそこを滑るたびに声が甘味を増してきていた。
皓はそれを察して、舌での愛撫を念入りに行う。
柾の口から漏れる声や吐息が扇情的だった。
「あっ、で、出るっ、皓っ」
我慢も限界に近付いてくる。
柾は皓の口内に出すのを避けようと皓の髪を掴んで離そうとするが、皓はしっかりと柾の腰を掴んでいて引き離せなかった。
「や、あっ、ああっ」
柾の腰がびくっと痙攣する。
吐き出された熱は皓の口内に吸い込まれた。
皓は満足げに喉をならして、ようやく口を離す。
「柾、可愛い」
「可愛いって言うな」
柾は真っ赤な顔で皓を睨んだ。
しかし皓はひるむ様子もなく、そのまま柾の首筋に唇を押し当てる。
「ひゃっ」
柾は思わず情けない声をあげた。
皓はにやりと笑って唇を離す。
首筋にはしっかりとキスマークがついていた。
「今度は俺も気持ち良くさせてもらうからね?」
皓はそう言ってシャツを脱いだ。
柾よりも少し色白の肌。
細身だが引き締まった体格。
思わず柾はその体に見入ってしまう。
そうしている間に、皓は再び柾のものを握り込んだ。
「やっ、皓、ちょっとっ」
柾は戸惑って抵抗する。
「本番はこれからだよ?」
皓はにっこり笑ってそう言うと、先端から溢れてくる液を指に取った。
そして。
「うわっ、ちょっと待てって、俺ほんとにそれは考えてな⋯⋯っ」
柾は皓のしようとしている事を察して抵抗を試みる。
「うるさい」
皓は抵抗する柾の唇を塞いだ。
舌で柾の上顎をくすぐる。
柾は段々と力が抜けていった。
「ふ⋯⋯っ」
キスの合間に吐息が漏れる。
柾の体から力が抜けたのを見計らって、皓は濡れた指をそこに侵入させた。
「ひぁっ」
柾の体がびくっと跳ねる。
「ふふ。柾の中、すごく熱いよ」
皓は嬉しそうにそう言うと、指をぐるりと動かした。
指が動くたびに柾の体が跳ねる。
皓はその様子を嬉しそうに見つめていた。
「やっ、あっ、そ、そこやめっ」
指で内壁を撫でるうちに柾の反応が変わってくる。
「ここ、気持ちいい?」
皓は柾の反応を確かめながら指を動かした。
そこを刺激するたび、股間のものが熱を持ち始める。
それを見て、皓は挿入している指の数を増やした。
「いっ」
柾の顔が苦痛に歪む。
「ちょっと我慢して」
皓は入り口を解すように指を動かした。
そのたびに柾が苦痛とも快感ともつかない喘ぎ声をあげる。
それを聞いているだけで皓の中心も熱くなってきた。
自分が喘ぐより、柾の喘ぐ声を聞くほうがよほど興奮する。
柾には悪いけど、こっちは譲らないよ。
そう思いながら指を抜く。
そして熱くなった自分のものに、用意していたゴムを装着するとそこに押し当てた。
「柾、力抜いててね」
そう言ってゆっくり腰を進める。
柾は苦痛を訴えるが、それをキスで塞いで自分を挿入していった。
「んっ、んんっ」
唇を塞がれながらも柾は苦痛の呻きをあげる。
やがて唇が離れた。
どうやらすっかり入ったらしい。
「やっぱり柾の中すごく気持ちいい」
皓がうっとりとつぶやく。
「や、皓、動くな⋯⋯」
皓が動くたびに柾の体が反応する。
「柾は気持ちいい?」
皓はそう言いながら柾の股間に手を当てた。
握り込んだそれをゆっくりと扱く。
皓を受け入れている部分がきゅっと締まるのがわかった。
柾のものを扱きながら、ゆっくりと腰を動かす。
「や、あっ」
柾の口から苦痛ではない喘ぎ声が漏れた。
皓は意地悪い笑みを浮かべる。
そして柾自身を扱くのをやめて根元を指で締めつけた。
腰を動かすのは止めない。
「あ、皓っ」
柾が何か言いたげな顔で見つめてくる。
「気持ちいいって言ってごらん。そしたらいかせてあげるよ」
締めつける指を緩めないまま皓は言った。
しかし柾は答えようとしない。
皓は更に腰を動かした。
「んっ、あっ、ああっ」
「言わないといかせてあげないよ?」
強情だな、と思いながらも急かすように腰をくいっと動かす。
柾は悔しそうに皓を睨みながら、消えるような声で「気持ちいい」と言った。
それを聞いた皓は満足げな笑みを浮かべる。
そして戒めを解くと、激しく腰を使い始めた。
手では柾のものを扱く。
「や、も、いくっ」
柾の顔が快感に歪んだ。
ほどなく皓の手の中に精を放つ。
皓もすぐに柾の中に熱を放った。
「⋯⋯何か、すげー屈辱」
ぐったりと脱力しながら、柾がつぶやく。
皓はゆっくりと柾の中から自分のものを引き抜いた。
「何が屈辱?」
そして柾の体を綺麗にしながら訊く。
「お前にこんな事されるのが」
柾は悔しそうな顔で皓を睨んだ。
しかし抵抗はせず、されるがままになっている。
白濁が溜まって膨らんだゴムは視界から遮断した。
「だってさー、ずっと柾にこうしたいって思ってたし」
皓はしれっとした顔でそう言った。
「俺だって思ってたぞ」
「まあいいじゃない。それとも俺の事、嫌いになった?」
「⋯⋯」
皓に訊かれて、柾は答えずそっぽを向く。
何だかんだ言って、やっぱり皓の事は好きなのだ。
しかしそれを口にするのは癪だったりする。
「素直じゃないなあ。まあそういうとこも可愛くて好きだけどね」
柾の気持ちなどわかっている皓は苦笑した。
そのまま柾に顔を近付けてキスをする。
ゆっくりと味わうようなキスだ。
そしてゆっくりと唇を離すと、皓はにっこり笑った。
「もう少し素直になってよね。今日はこのまま泊まってくよ」
そう言うと柾の体を自分に向けて、抱き合うような形で横になる。
時計を見ると、もう既に真夜中に近い時間だった。
皓に抱かれて寝る体勢になった柾は、小さくため息をついて皓を見つめる。
満足そうな顔だった。
やっぱり綺麗だよな、と思う。
そしてそんな皓の事がやっぱり好きなんだと思った。
自分が抱かれるのは不本意だったが、皓の幸せそうな顔を見ているとそれでもいいかな、と思ってしまう。
「ま、いっか」
柾は小さくつぶやくと、ゆっくりと目を閉じた。
終。
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