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1ヶ月以上かけて準備してきた桔梗祭の記憶は、こうして、たった45分に全て書き換えられた。
佑哉がいないイベントなんて何の意味もなくて、そんなものよりも、真っ暗な部屋で佑哉の呼吸を感じている方がうんとずっといい。
廊下がざわめいている。
キャンプファイヤーが終わって、他の部屋の生徒たちが戻ってきたらしい。
僕たちは裸のままベッドの中で丸くなっていて、世界から切り離されているような感覚になった。
「ねえ佑哉。さっきの、転校したいっていうの。本当?」
小声で尋ねると、佑哉は困ったように「うーん」と苦笑いしながら答えた。
「したいかしたくないかで言ったら、当たり前だけど、したくないですよ。でも、誰かに迷惑かけちゃうのが嫌なのも、本音なので」
「どうして佑哉はそんな風に、自分がいるだけで迷惑みたいなことを言うの?」
「うーん。そんな場面をたくさん見たきた、から?」
「僕はそんなことないと思う。いや……佑哉の人生を全部把握してるわけじゃないし、分かんないけど。でも、芸能人とか関係なしに、佑哉が友達で楽しいって思ってる人はいるだろうし、そんなに周りと距離取らなくてもいいと、僕は思うけど」
佑哉は、僕の額に何度か口づけてから言った。
「俺、友達っていないと思ってて。クラスが同じでなんとなく一緒にいる数人とかはいるけど、別に深く話せてるわけでもないですし」
佑哉の話しぶりを聞いていて、僕は、少しだけ気づいたことがあった。
「もしかしてさ。佑哉って、人間関係下手くそなんじゃない?」
「……やっぱりそうなのかな。どの辺でそう思いますか?」
「いや、仕事優先だから群れないようにしてるのかなって思ってたけど、普通に人に深入りできない性格なんじゃないかって」
佑哉は少し考えたあと、少し寂しげに笑って言った。
「うん、まあ……そういう感じはあるかも。ぶっちゃけて何か話すとか、苦手です」
「僕には何でも話してよ」
ぎゅーっと抱きしめると、同じくらいの強さで抱きしめ返された。
「先輩のことが大好き。正直、先輩以外の人類はどうでもいい。って思ってるんですけど、重過ぎて気持ち悪いかなと思って言ってませんでした」
「同じくらい好きだと思うけど」
「いや、一方的に重いような」
僕は、ふふっと笑った。
「来年も佑哉と同じ部屋になれるように、交渉する。大丈夫、武器はあるよ」
小西さんの言う通り、僕は『おしゃべりが上手で立板に水』だから――
「全権を駆使して、先生を説得する」
佑哉はじわじわと目を見開いたあと、ふにゃっと溶けそうに笑った。
「先輩、だあいすき」
「佑哉には僕さえいればいいんだよ」
「重いなあ、あはは」
ぼんやりと思い出す。
たしか、桔梗の花言葉は『永遠の愛』と『誠実』だと、看板を塗る美術部員が話していた。
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