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雪が降っている。 手を口元に近づけ息を吐く。 寒い…。 カタカタと震える手にもう一度息を吐く。白い吐息が空に舞い、僕は手と手を擦り合わせた。 少し離れた所では大人達の笑い声が響いている。ベンチに座ってそれをじっと眺めては、視線を逸らす。 誰にも気づかれない。 両親も執事やメイドもその他大勢も誰も気づかない。例えあの中に自ら戻ったとして、僕の存在に気づいたとして、なおも僕は僕として見られない。 御曹司という肩書きは消えない。 それも用無し御曹司。 継げない御曹司。 兄の代用品など、誰も欲してやいないのだ。 「寒い…。」 「それなら、戻れば良い。」 「だれ…?」 少し低い声。 僕と同じくらいの背丈の男の子がそこにいた。 「俺は一条浩也。おまえは?」 「ハノ。」 「ハノ?名前か?それ。」 「うん、ハノ。君、一条家の人なんだ。君こそあそこから離れたら駄目でしょ?」 「はっ、いいよ。どうせ、親同士が勝手に話してるだけだし。ちょっとくらいなら。それに、お前と話してた方が暇潰しになる。」 「そっか。ハノはね、お情けでここにいるの。お兄ちゃんがいるからここにいなくていいのにね。どうせ継げないし。だから親も自由にしろっていうの。どうせならグレちゃおうかな。」 「自由はいいことだろう。寧ろ、羨ましいよ。俺には自由なんてないしな。」 「でも、お家、継ぐんでしょう?お父様が言ってた。一条浩也って子が次の後継だって。一条家の当主になれるんだったら何でも出来るでしょ?遊園地貸切とか!」 「その分辛いことがある。婚約者も勝手に決められた。」 「それなら、偉い人倒してその婚約もなしにしちゃえばいいよ。ハノも本当はね、当主になってやるって思ってたんだけどね…。お兄ちゃんが歳離れててもう無理なんだ。だからね、君がハノの代わりに当主になって、遊園地貸切にして。ハノの夢なんだ。」 あのキラビラかな世界は憧れる。 お父様に言ったって、連れて行って貰えないから。あそこなら駄目な僕でも夢が見れる気がするんだ。 「お前は気楽でいいな。でも、そうだな。当主になったら遊園地の貸切くらいしてやるよ。だから、その時までお前も頑張れよ。」 「うん、約束だよ。絶対ね。忘れたら針千本飲ますからね。」 「一条の俺によくそんなこと言えるな。」 「うん、これは子供と子供の約束だからね。いいの。ほら指切り。」 小指と小指が絡まる。 寒空の下、初めて僕は誰かに見つけて貰えた。 約束は果たされる事はないと知っていたけれど。

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