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「あの日のことは鮮明に覚えている。」
あの日とは、あの約束した日のこと。
「あの日からずっとお前との約束を守るためだけに生きてきた。結果として、婚約は解消され時期後継者として正式に決まった。…お前のおかげだ。ハノ。」
「僕は何も…。」
「お前は俺の救いだ。自由なんてどこにもなくて、彷徨っていた俺に手を差し伸べてくれた存在だ。だから、お前を必死に探した。
結局、お前を見つけることは出来なかったが。だから、まさかこんなにも近くにいるとは思わなかった。影でハノが俺を支え続けてくれていたとは思わなかった。
だから、正体を明かさなかったお前が悪い。なんで早く教えてくれなかった。
…愚かにもそう思った。
お前は何も悪くない。
そんなことは知っている。
だが、悔しかった。自分はこんなにもハノを求めていたのに、親衛隊が憎いあまり、大切な人の存在にすら気づかなかった。
いや、そもそも変わっていく親衛隊を知っていてなお、無視をし存在を消そうとしていた俺の幼稚な心のせいでもある。」
「…会長様。いえ、憎むのも仕方のないことです。親衛隊設立当初は本当に親衛隊はあなたを苦しめました。貴方は間違ってなど…。」
「違う!俺は認めたくなかったんだ。親衛隊であるお前に頼っていたことを。自分一人で出来る。他の奴に頼らなくても完璧になれる。そう思いたかった。でないと、ハノに見せる顔がないって。」
「僕は…。」
「ハノが好きだった。初恋だったよ。情けない姿を晒すわけにはいかなかった。」
目を見開く。
初恋?
あれが?
「好きだった。一目惚れだ。愛しくて仕方ない。カッコつけて、どうだ、見てみろって言ってやりたかった。結局、こんな情けない姿しか晒せてない。
アキに言われたよ。
俺は初恋に夢見ているだけだって。
傲慢な俺は、ただ、初恋に夢見ている。
ははっ、間違いねぇ。
間違いない。
だって、お前に気づかなかった。
親衛隊隊長をしていたお前を憎んでいた。
お前なんて大っ嫌いだった。
だから、そうだ。
俺が好きなのは、ハノでお前じゃない。」
「会長様…。僕じゃないのは、分かりました。分かりましたから、泣かないで下さい。」
どうして貴方が泣く。締め付けられるのは苦しむべきは僕だろ。なんで、なんで貴方がそんなに苦しそうに泣くんだ。
「どうして、俺は気づかなかった…。気づいていたら、素直に言えたのに。お前に愛してると言えた。俺がお前を幸せに出来た。
でも、俺はお前に気づかず、そしてお前を傷つけた。どうしたら、お前を幸せにしてやれると言える。
好きだ、好きだ、愛している。その気持ちが溢れて仕方ないのに、俺の愛は幼い頃に向けていたハノに対しての愛でしかないのか。」
僕はどうすればいい。
はは、おかしいな。
会長は僕が好き。
好きなのは幼い頃の僕。
腹の中がぐちゃぐちゃになる感覚。
「会長様…。あなたは、ずるいです。そして、今から僕もずるい事を言います。
…ハノとして、今の僕なんてなくていい。
だから、愛して下さい。
何も知らない。
無邪気で、無垢な僕として扱って下さい。
あなたを愛する前の僕を愛して下さい。」
瞳から溢れる涙を抑えようだなんて思わない。
「嘘でもいい。
真実なんていらない。
愛も恋も、偽物でいいから、だからっ!
あなたの愛を下さい。」
「…っ。歪んでるな。歪ませてしまった。でも、違う。頼む、違うんだ。ハノ、ミハノ。ミハノ。もう一度、やり直したいんだ。」
「へ?」
「分かってる。自分勝手なことくらい。それでも、もう一度、お前をお前を、ハノじゃないミハノを見て、知って、恋に堕ちたい。
その時間を俺にくれないか。こんな愚かな俺に…。
時間をくれ。」
「会長様…。僕は、貴方を愛しています。今でも。だから、あなたが僕に愛をくれるというのなら、断る理由などありません。」
「そうか…。そうか…。」
あなたが今の僕を知って、もしかしたら拒絶するかもしれない。そしたら僕は死んでしまうだろう。
それでもなお、貴方からの愛を欲する僕もまた愚かだ。
愚かな僕らは指切りをする。
また一から始める為に。
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