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12-1 出張
次に目が覚めたときシーツは綺麗なままで、ほっと胸を撫で下ろした。
顔を洗って、お客さんが来ない間はただその部屋の中で囚人みたいにぼんやり過ごす。
しばらく経った頃、軽いノックの音が響いた。
「よう、ユーリくん。調子はどうだ?」
「……タツミ、さん…。」
「んな警戒すんなよ、随分嫌われたもんだ。」
からから笑いながら部屋に入って来ると
愉しそうに目の前で立ち止まる。
「 なぁ……店の外、出たくないか?」
ーーーーー
ーーー
「……さむ、」
車から降りた途端感じる冷気に腕をさする。
店へ連れられたあの日は涼しい程度だったのに今ではすっかり冷えていて、道行く人はみんな長袖だ。
置いていかれるような時の流れを感じて、少し寂しくなった。
でも、外にいる。
「ふは、嬉しそうだな…ほら、マフラー。」
痕隠せるしちょうど良い時期だったな、と腰を曲げ簡単にマフラーを巻きつけてくれた。
あの部屋から出られた事が嬉しくて、散歩中の犬や駆け回る子供、なんて事ない景色を何度も見渡した。
でも体力は落ちていて、すぐへばってしまって。
「なんか飲むか?」
タツミさんは終始優しくて、公園のベンチで休んでいると自販機で温かい飲み物を買ってくれた。
"配信のご褒美"らしいこのお出かけは、
一時的だと分かっていても、すごく幸せで。
「……そろそろ時間だな、行くか。」
ああ、また戻らなきゃ、そう思っていたのに、
案内されたのは、立派な塀に囲まれたお屋敷。
「…ここ、何ですか…っ、」
「13人…くくっ、13人だぜ…大儲けだ…!」
「ねぇ、タツミさん…ッ!」
逃がさないとでも言うように強く掴まれた手を引かれ、ずんずんと和風な広い庭を進んで行かれる。
「お待ちしておりました、」
出迎えたのは車椅子のおじさんで。
和やかに挨拶をするタツミさんの手は解けない
「ゃ、だ…っ、タツミさん…っ」
「こらこら、お利口にしてろ。」
配信見て気に入ったらしいぜ?と耳打ちすると、おじさんの御付きらしいスーツの2人に引き渡された。
「ッぃ、…っ痛い、です…っ、」
荒く後ろに捻り上げられた腕が軋み訴えても、
緩むことのない手にますます恐怖が募っていく
どうして、
助けを求めてタツミさんを見たけど、
「 2日間出張な。頑張れよ、ユーリくん。」
にっこり、躊躇なんて一切ない笑顔で
軽やかに踵を返したその姿は見えなくなった。
「ゃ、だ…ッ、……っ、離してぇ…!」
広い廊下を引き摺るように、
おれは一人お屋敷の奥へと連れて行かれた。
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