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第1話
「オイッ!左腕を怪我してる男がこの辺に走って来なかったか?」
「いえ、知りませんけど。何かあったんですか?」
「…来てないのか。いい、車を止めさせて悪かったな。」
軽く謝り、黒ずくめスーツの男達は慌てた様子で踵を返し、来た道を走って戻っていった。
「…行ったみたいですね。病院に運びます?」
後部座席の荷物に紛れた男は、むくりと起き上がった。
「いや。どこか適当に降ろしてくれ。面倒ごとに巻き込むつもりは無かったんだ。世話かけたな。」
契約店にオシボリの配達を終えたその帰り道に、路地裏で血に染まり蹲 るこの人と目があった。顔を隠す長い前髪の隙間から僅かに覗いた瞳が獰猛な獣のようで、鋭く睨みつけられた。
一瞬怯んだけれど腕の怪我が酷い事もあり、自分の服を破って止血し車に乗せた。
さっきから怖い連中が血眼になって彼を追い、細い道をくまなく探している。
一刻も早くここを離れた方がいいだろうと、車を走らせた。
「あの、どうしてあそこに?」
思い切ってそう聞くも、返事が無い。
馴れ馴れしかったかな…。
「やっぱり何でも無いです。隣の県まででいいですか?」
返事無いな…。
振り向くと、うつ伏せで倒れた状態から意識を失っている!
「えっ、大丈夫ですか!?」
ヤバイよ、ヤバイよ、ヤバイよ、ヤバイよーって、俺はどっかの芸人みたい!
パニックなまま、独り言でもそれしか言えなくて、焦りながら闇医者のキミちゃん家 に車を走らせた。
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