3 / 69
1 : 2
目が覚めると、そこは見慣れない部屋だった。
(ここ、は……ッ?)
記憶を辿って、必死にこの場所を思い出そうとする。
が、なにも思い出せない。
(確か、俺は……街を歩いていたはず、だよな?)
そして、そのままフラフラとさまよって?
……ダメだ。
どうしても、建物に入った記憶が無い。
分かっていることと言えば、ここが俺の家ではないってことだけ。
(そもそも、俺は……なんで、街を歩いてたんだ……?)
一回振り出しに戻ってみようと思い、俺は街を歩いていたそもそもの原因を考える。
そこで。
「――いッ、てェ……ッ!」
突然、ほっぺたに妙な痛みが走った。
(なんだよ、ジンジン痛ェな! ……ン? ほっぺたに、痛み……?)
そこまで考えて。
それでようやく、街をさまよっていた原因を思い出せた。
(そうだ! 俺、アイツとケンカして、それで……ッ!)
ほっぺたが妙に痛い理由は、ひとつだけ。
――俺は、彼女をメチャクチャ怒らせて。
――そしたらアイツ、いきなり俺のことを殴ってきたんだ。
それで。
……そし、て……?
(あぁ、オッケー。……ようやく思い出せた)
落ち着く為に、一から考え直そう。
俺は昨日、彼女にこっぴどく振られた。
それがどうにも引っ掛かって、金曜日の仕事終わりだっていうのに、全然眠れなくて。
――そうだ、酔って忘れよう!
そう思った俺は家にある酒をしこたま呑んで、ほど良く気持ちを誤魔化した。
が、今度は逆に酒を飲むことがメインになっちまって……?
(酒がなくなったから、確か……コンビニに、向かったんだ)
俺はもう一度、室内を見渡す。
……ヤッパリ、この建物に入った記憶はない。
当然ここは、コンビニなんかじゃないし。
(そもそも俺、コンビニにすら辿り着けてねェんじゃ……?)
その通り。
そもそも俺は、コンビニにすら辿り着けなかったんだ。
……オイ、コラ。『コンビニに行けないほど酔ってたくせに外出するな』とか言うなよ、オイ。
(って、現実逃避をぶっかましてもなァ?)
結局、ここがどこなのかは分からないまんまだ。
身の振り方も分からない俺は、意味も無く辺りを見渡してみる。
(部屋ン中、なんにもねェな……)
必要最低限の物しか置いていない。
どことな~く、寂しい感じがする部屋。
……いい感じの言い方をすれば【シンプル】ってやつか。
(いや、ホント……マジでここ、どこなんだ……?)
ダチの家でもなければ、ホテルっぽい感じでもない。
モチロン、刑務所ン中でもない……と、思いてェ。
心当たりになりそうな記憶を、無理くりにでも引っ張り出そうと、思考を巡らせてみる。
……オイ、そこ。『ムダな足掻き』とか言うんじゃねェ。こちとら必死なんだよ、分かってくれ。
とかなんとか虚勢を張っていないと、不安でどうにかなりそうだ。
脳内ショートコントをテンポ悪く始めたとき。
――俺は視線を、ある一点に向けた。
(――足音だ)
自画自賛になるが、今の俺は野生動物級の耳ざとさだったぜ。
視線を向けた一点――入口ドアの奥から、どんどん近付いてくる足音。
その足音が、ピタリと止まる。
それと、同時に。
扉が、開いた。
ともだちにシェアしよう!