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 ――見ず知らずの、どう見ても裏社会所属っぽいヤベェ男か?  ――それとも、いかにもって感じの意味深な色気を垂れ流してる女?  瞬時にその二択を展開し、俺は開かれた扉の先を見る。  そこに、立っていたのは……。 「――あぁ、起きたんだね」  ――ひとりの、男だ。  裏社会所属っつゥよりは、むしろそういう奴等に搾取されそうな印象。  ひ弱そうで、ケンカとかとは無縁そう。  例えるなら、そうだなァ……?  困ったように笑いながら『穏便に、話し合いをしませんか?』とか言う感じ?  そんな印象を持ったからこそ、すぐに分かった。 (――この人か)  ――この男性こそが、この部屋の住人だ、と。  部屋のイメージと、男の人のイメージが、ピッタリと一致する。  お世辞にも粗相がないとは言えないくらい、俺は不躾な視線を男の人に送ってしまっただろう。  けど、この人はイヤそうな顔をしていない。  むしろ……。 「ごめんね。いきなり知らない場所にひとりで、不安だっただろう」  歳は、三十代くらいか?  実際に笑った顔を見ると、さっきの印象とちょっとだけ変わる。  弱々しく微笑むその姿は【虚弱】と言うよりかは。 (【儚くも美しい】って、感じか?)  あぁ、その方が合ってるな、ウン。  どう見ても男だが、キレイな人だ。  俺は予想外の人物が現れたことに、そこそこ動揺していたらしい。 「顔、痛むかな」 「え? あっ、えっと……ウス」  男性からの問いかけに、素っ頓狂な声を上げてしまった。  俺は驚きつつも、慌てて頷く。 (いや、バカかよ、俺! この答え方じゃ痛むのか痛まねェのか分かんねェだろうが!)  上の空になってしまった原因がこの男だとしても、心配してくれているのは事実。  ガキでも答えられる二択を華麗にミスった俺を見て、この人はどう思ったのだろう。  男の人は、悲しそうな笑い方をしたままだ。 (コレが、この人の素なのか? それとも……)  得意でもない考えごとってやつをしながら、俺は男の人を見上げる。  そうすると、男の人は一度、手に持っていたトレーをテーブルに置いた。  そして、俺が座っているベッドの近くまで、イスを持ってくる。  と思ったら、男の人はゆっくりと……そのイスに、腰掛けたではないか。 (う、わ……ッ! 近くで見ると、ヤッパリ……)  ――メチャクチャ、キレイな人だ。  顔が整ってるとか、服装がオシャレとか……そういう、見た目だけの話じゃない。  纏うオーラそのものが、なんか……なんて言うか、尊いって感じ。  聖人っぽいその人は、テーブルに置いたトレーを手にとった。 「えっと……お粥を、作ってみたけど。……食べる、かい?」  そう言って、トレーの上に載った食器――お粥の入った器を、見せてくれる。 「い、いや……いきなり、メシとかもらうワケには――」  俺だって、一応は社会人だ。  こう見えて、最低限の礼儀っつゥモンは分かってる。  ――はずなのに。  ぐぅ、と。  腹の虫ってやつは、空気を読むことができないらしい。

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