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リビングで。
いつものテーブルを挟んで、俺たちは向かい合って座っていた。
「――本渡君。今日のことは、お互いに忘れた方がいい」
俺にムリヤリ抱かれた赤城さんは、俺と目を合わせてくれない。
俯いて、静かな声で、そう告げたんだ。
「赤城さん……ッ」
赤城さんにとっては、ヤッパリ……迷惑、だっただろう。
当然、手に入れることができるとは、思っていない。
赤城さんには、恋人がいる。
しかも、相手からの暴力を許してしまうほど……赤城さんは、江藤を愛してるんだ。
そんなふたりの間に、ポッと出の俺が入り込める隙間なんて、あるワケがない。
「僕たちは、友達だ……っ」
「それは、俺の気持ちには応えられないって……イヤって、ことッスか?」
ハッキリと、肯定してほしかった。
友達に戻れる自信はないけれど、それが赤城さんの望みなら……罪滅ぼしとして、受け入れたっていい。
――そう、思っていたのに。
「――そんなこと、訊かないでくれ……っ」
赤城さんは顔を覆って、テーブルに肘をつく。
「僕は、酷い男なんだ……っ。きみに愛してもらえるような、そんな人間じゃない……っ!」
くぐもった声は、あまりにも……痛々しい。
――どうして、そんな言い方をするんだ。
――それじゃあ、俺は……いつまで経っても。
(あなたを、諦めきれないじゃないか……ッ!)
イスから立ち上がって、赤城さんに近付く。
物音に気付いた赤城さんが、顔から手を外す。
そして……いきなり横で跪き始めた俺を、見下ろした。
「赤城さん、お願いです。……江藤じゃなくて、俺に──俺だけに、依存してください」
「本渡君……っ」
「赤城さんは江藤に、依存しているんですよね?」
「……っ!」
赤城さんの身体がギクリと震えたのが分かった。
――半分は、カマをかけたつもり。
――もう半分は、確信だった。
『勘違いすんなよ、本渡。鈴華が依存してるのはオレだ』
『お前はその対象になれねーんだよ』
江藤の言葉を、思い出す。
(そんなの、アイツが決めることじゃねェだろ……ッ!)
赤城さんが、幸せなら。……だったら、身を引く。
――だけど絶対に、そうじゃない。
そうと分かっているのに、身を引くなんて……自分勝手な俺には、できっこないんだ。
「赤城さんは、江藤に依存してるから暴力を許すんですよね。自分に非があるって思ってるから、江藤のこと……許すしか、ないんスよね?」
「違う、僕は――」
「愛してくれたから、嫌われたくないんスよね? 男を好きな赤城さんを受け入れてくれたから、赤城さんは江藤を突き放せない。拒絶しない。……そうなんでしょう?」
手が、届くかもしれない。
そう思って、俺は赤城さんの両手を、握ろうとした。
――だけど。
「――やめてくれッ!」
初めて聞いた、赤城さんの叫び声。
それが、全ての答えだった。
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