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終章 : 3 ~了~
食器を洗ってくれている赤城さんの後ろ姿を、ジッと眺める。
(抱きつきたい……ッ)
だけど、邪魔はしたくないのでガマンだ。
「本渡君、その……視線を、感じる……っ」
「サーセンッ!」
どうやら、黙っていても邪魔してしまっていたらしい。
洗い物を終えた赤城さんが、もう一度俺の正面に座る。
「家事、いろいろやってもらってスミマセン。もっと、自炊とか頑張ります」
「そんな、いいんだよ。僕が呼んだんだから、おもてなしさせて?」
「赤城さんは、いい奥さんになるッスね。俺のッスけど。法が許してくれたら【本渡鈴華】になってください」
「なんて答えたらいいのかな……っ」
口説くと、赤城さんいつも顔を赤くする。
その様子を見るのが好きで、ついつい恥ずかしがらせたくなってしまう。
(うぅん……好きな子をいじめたくなる気持ちって、こういう感じなんだろうか?)
そんなことを考えても、答えてくれる人はいない。
「赤城さん、キスしたいッス。してもいいッスか?」
「え、っ」
イスから立ち上がり、赤城さんの隣まで歩く。
突然キスをせがまれたからか、赤城さんが肩を跳ねさせた。
頬に手を添えて、見つめる。
「……っ」
すると、観念したように赤城さんがギュッと目を閉じる。
「愛してます、赤城さん」
ふにっと、触れるだけのキス。
離れるとすぐに、赤城さんが目を開いた。
「きみと付き合えて、僕は凄く幸せだ。こんなに幸せでいいのか、不安になるくらい……っ」
赤城さんがイスに座ったまま、俯く。
「不安になったら、きみはいつでも打ち明けてほしいと言ってくれた。そんなきみに、僕は甘えている。年上なのに、こんなのはとても格好悪い。情けなくて、自分が嫌になるよ」
「そんなことないッス。赤城さんは、凛としていてステキだと思います」
こうして、素直に気持ちを伝えてくれるのは……凄く、嬉しい。
顔を上げた赤城さんが、不意に、立ち上がる。
「いつも、僕に優しくしてくれて……本当にありがとう」
下を向いていた顔が、控えめに俺を見上げた。
「まだ、ちゃんと口に出したことはなかったたけれど……きみに、伝えたい言葉があるんだ」
「ハイ。聴かせてください」
赤城さんの頬に、手を添える。
そうすると、赤城さんが俺の腕に手を、添えてくれた。
「きみと僕は、全然違う。きみは……凄く、強い人だ」
「……ウス」
「弱い僕を、優しいと言ってくれて、ありがとう。僕を選んでくれて、僕がきみを選んだことも受け入れてくれて……本当に、ありがとう」
困ったように眉尻を下げているくせに、赤城さんは。
「きみのように、強くて立派な人になりたい。今はまだ、弱いままの僕だけど、それでも」
しっかりと、俺を見つめて。
「――僕はきみが好きだ。……果、くん」
控えめに、小さく微笑んだ。
――俺は今までも、赤城さんのことが十分好きだった。
――それなのに、これ以上。
(これ以上好きにさせるなんて、この人はホントにズルい)
そうは思っているのに、口角が勝手に上がる。
「――俺も、大好きッス。これからも、ずっと一緒にいさせてください。……鈴華さん」
見つめ合ったら、恥ずかしそうにしているこの人は、なんて……。
――なんて、愛しい人だろう。
終章[ 幸福と蜜月 ] 了
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