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終章 : 2
赤城さんが作ってくれたビーフシチューを食べながら、俺はベソベソと泣きごとを漏らす。
「サビ残じゃないからまだいいッスけど、なにも今日じゃなくてよくないッスか? 俺は赤城さん以上に大切な仕事なんて、この世に存在しないって思ってるんスけど」
「そっ、そんなことは、ないと思うけどな……?」
仕事のグチを漏らす俺を見て、赤城さんは困ったように笑っている。
結果的に約束を破ってしまった俺を、赤城さんは決して責めなかった。
ましてや、俺に仕事を押しつけてきた上司相手にも文句を言わない。
「ヤッパリ、俺と赤城さんって全然違う人間スよねェ……」
「えっ? あ、うん。僕もそう思う、かな」
「俺は赤城さんみたいに、いつも余裕があって落ち着いた感じになれないッス。マジ尊敬ッス、リスペクトってやつッスね。赤城さん、メチャクチャ愛してます」
「あ、愛……っ。……あり、がとう……っ」
赤城さんは相変わらず眉をハの字にしながら今度は、はにかむ。
(笑ってる赤城さん、マジでカワイイ)
今までも、俺は赤城さんの笑顔が好きだった。
それは赤城さんのことを【恋愛的な意味で好きだ】と自覚する、もっと前から。
だけど赤城さんと恋人同士になって、お互いが好き同士なんだって確認し合ってからさらに……。
すごく、可愛く見えて仕方ない。
(年上の男に対して、こんだけ『カワイイ』って思うのも変かもしんないけどさ)
それでも、カワイイんだから仕方ないだろう。
赤城さんお手製のビーフシチューを平らげて、俺は正面に座る恋人を眺めた。
食事の動きすらもキレイな赤城さんは、ゆっくりと上品にビーフシチューを食べ進めている。
口の端についたビーフシチューを、赤城さんがそっと舌で舐めた。
(……ちょっと、ムラッとしてきたな)
俺たちが付き合うようになって変わった関係性は、一個だけ。
「食事中にスミマセン、赤城さん。今晩、抱いてもいいッスか?」
「ん、っ! けほっ、けほ……っ! い、いっ、いきなり、なにを……っ?」
しまった。脈絡がなさすぎて赤城さんがビーフシチューを詰まらせかけてしまったらしい。
……イヤ、詰まるワケないよな。気管にでも入ったのか?
話を戻すと……俺たちにとって唯一変わったことと言えば、オープンにセックスをするようになったってこと。
キレイな言い方をすると、恋人がするようなことを堂々とできるようになった……ってところか。
「ちゃんと、寝るときまで待ちます。だから、考えておいてほしいッス」
「……っ」
なにも答えず、赤城さんはビーフシチューを食べ進める。
たぶん、メチャクチャ意識してくれてるな。さっきまでは静かに食べてたけど、今はスプーンが皿に当たってカチャカチャ鳴ってる。
(分かりやすすぎて、カワイイ。ガマン、ガマン……ッ)
赤城さんがなんて答えるのかは、分かってた。
だけど俺はジッと赤城さんを見つめて、動揺しまくっている様子を眺め続ける。
「見過ぎだよ、本渡君……っ」
「スミマセン。好きだなって思ったら、目が離せなくて」
「そっ、そういうのは、慣れてなくて……っ」
「慣れなくてもいいッスよ。恥ずかしがってる赤城さんも、メチャクチャ好きなんで」
そう言うと、赤城さんはさらに恥ずかしがってたけど。
……ヤッパリそれも、カワイイんだから仕方ない。
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