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終章[ 幸福と蜜月 ] 1
赤城さんと付き合うようになって、一ヶ月後。
実は意外と、俺たちのしていることはあまり変わっていなかったりする。
(ン? 今、ポケット震えたか?)
スーツのポケットにしまい込んでいた携帯が、振動した。
俺はすぐに携帯を取り出し、振動した理由を見る。
「あっ、赤城さんからだ!」
メッセージが送られてきたらしい。
差出人は今言った通り、俺の大好きな恋人からだ。
『今日は仕事が定時で終われそうです。本渡君はどうだろう?』
これはつまり、赤城さん流の『会いたい』だろうな。
自分の気持ちを真っ直ぐに伝えるのが苦手な赤城さんは、遠回しな言い方をしたりする。
自分の本心を隠して、こっちの顔色を窺うような訊き方だけど……それは赤城さんが元から持ってる、人を思いやってしまう優しさからだ。
(だからって、俺もそうやってあげたりはできないんだけどさ)
俺はすぐに、返事のメッセージを送る。
『会いたいので、なにがなんでも定時で帰ります!』
俺も赤城さんみたいに、もうちょっと相手の気持ちを考えたりできたらいいんだけど……。
だけど、俺はいつだって、赤城さんには直球でいようと決めたんだ。
携帯をポケットに突っ込み、俺は自分のデスクに戻る。
「おっ? 本渡、便所から戻ってきたのか。……ってか、なにニヤニヤしてんだよ、怖いぞ?」
「へへっ、なんとでも言いやがれ!」
「うわっ! 絶対恋人関係だ! リア充は嫌いだぞ!」
「ひがんでないでサッサと仕事しろよな。俺は定時で帰るぞ、絶対に!」
赤城さんと付き合ってからわりと上機嫌まっしぐらな俺を見て、同僚は憎まれ口をたたいてくるが、そんなモン知ったこっちゃねェ。
(待っててください、赤城さん!)
愛のため、俺はダカダカッとキーボードを叩き始めた。
* * *
「……それで、張り切った本渡君に目をつけた課長さんから仕事を頼まれて?」
「二時間の残業を決め込みました……ッ!」
場所は変わって、赤城さんの家。
いつものリビングで、俺は赤城さんと向かい合わせで座っている。
両膝に握りこぶしを置いた俺は、イスに座ったまま頭を下げた。
そう。今、赤城さんが説明した通り。
「――俺は『絶対に定時で帰る』って赤城さんと自分自身の心に誓ったクセして、結局残業してしまった大ウソ吐きヤロウなんスよォオ……ッ!」
あまりにもあまりすぎる結末に、俺は顔を上げられなかった。
そんな俺に、赤城さんは困ったような声で話かける。
「僕は大丈夫だから、そんなに気にしないで? 残業するかもしれないと分かったとき、本渡君はすぐに連絡をくれただろう? だから、僕は全然怒ったりしていないよ? 残業、お疲れ様」
「うぉお、優しいッス……ッ! でも、赤城さんは晩メシ作って待っててくれたじゃないッスかァ……ッ!」
「それは、えっと……せっかくならと思っただけで、帰りを急かしたつもりじゃ……っ」
赤城さんと付き合ってから、一ヶ月。
赤城さんは相変わらず、俺の天使なままで。
俺は相変わらず、猪突猛進をこじらせて盛大に空回っている状況だったりする。
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