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プロローグ1

 高層ビルが濫立(らんりつ)する都心のオフィス街で、そのビルはひときわ荘重たる構えを見せていた。  天城(あまぎ)製薬株式会社。  地下四階、地上三十八階建ての超高層ビルまるまる一棟を自社ビルとして所有している。  建物の正面でその威容を見上げた八神(やがみ)群司(ぐんじ)は、軽く息をつくと大きく一歩を踏み出した。  正面の自動ドアを抜けて、数階分吹き抜けになっているエントランスホールに足を踏み入れる。奥にあるカウンターに近づいて、待機している受付嬢のひとりに声をかけた。 「すみません、本日からこちらのバイオ医薬研究部でお世話になる予定の八神群司と申しますが」  群司が挨拶をすると、手もとの端末で伝達事項を確認した女性はすぐに笑顔になって受け応えた。 「はい、承っております。研究アシスタントで採用された方ですね。こちらの入館証をお持ちになって、二十二階の創薬本部までいらしてください。担当の者から専用のICカードをお渡しすることになっておりますので。入館証は、お帰りの際にまたこちらに戻していただければ結構です」 「わかりました。ありがとうございます」  差し出されたカードを受け取って、群司は受付わきのセキュリティゲートに向かう。 「一階受付です。ただいま、研究アシスタントの八神群司さんがお見えになりました。入館証をお渡しして、そちらにご案内を――」  受付嬢が担当部に連絡を入れる声を背後に聞きながら、渡された入館証を(かざ)してゲートを通過し、エレベーターホールに足を向けた。  上ボタンを押してエレベーターが到着するまでのあいだ、案内板で指定された二十二階をチェックする。創薬本部は、二十階から二十二階までの三フロアーを占めており、そのうちの二十二階に採用先のバイオ医薬研究部があるらしかった。  ほどなく到着したエレベーターで、言われたとおりに二十二階へ向かう。時計を確認すると、指定された時刻のちょうど五分前だった。

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