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プロローグ2

「やあ、八神くんだね。ようこそ、お待ちしてました。バイオ医薬研究部所属の田ノ浦(たのうら)です」  途中階で止まることなくすんなり二十二階に到着すると、開いたドアの向こうに恰幅のいい白衣姿の男が待ちかまえていた。年齢は、四十前後といったところだろうか。愛想のよすぎる笑顔に胡散臭さをおぼえつつ、群司は頭を下げた。 「本日からお世話になります、八神です。よろしくお願いします」 「いやいや、メチャクチャ背が高くて男前だねえ。羨ましいよ。って、あ、これもひょっとしてセクハラの部類に入っちゃうのかな」  調子のいい褒め言葉を、群司は返答に困ったふりで適当に受け流し、先導する田ノ浦のあとにつづいた。 「八神くんは、この春から大学の四年生だってね。就活はもうぼちぼちはじめてるの?」 「そうですね。いまは一応、検討してる段階です。院に進むかどうかも迷っているので。なのでこの機会に、実際に社会を見ておくことも必要かなと思いまして」  群司の説明に、田ノ浦はなるほどねぇと頷いた。 「真面目に将来のこと見据えてて偉いなぁ。理工学部在籍だったっけね」 「そうです。生物学科に所属してます。遺伝子系とか、そっち方面に興味がありまして」 「うちの会社でも理学系出身者、少なくないよ。ま、研究職目指してるにしても、うちでの経験はそれなりに活かされるかもしれないね。全然、無駄にはならないんじゃないかな」 「はい。よろしくご指導願います」 「いやいや、まあそんな堅苦しく考えないで」  田ノ浦は軽い調子で笑った。 「外からのイメージだと、バイオ医薬研究部なんて言うとだいぶお堅く見られがちだけど、部内は割合、和気藹々(あいあい)とした働きやすい環境だから」  気軽にやって、と気安い口調で言う。 「まあ、研究アシスタントって言うと聞こえはいいけどさ。実際八神くんにやってもらうのは、資料整理とかデータ入力、実験の記録係、あるいは備品整理とか研究室の掃除、みたいな雑用になっちゃうと思うんだよね。そこらへんはあらかじめ了承しておいてもらえるといいかな」 「わかりました。できることがあるなら、なんでも喜んで」  群司の返答に、田ノ浦は助かるよ、と満足げな様子を見せた。  雑用だろうとなんだろうとかまわない。いまはとにかく、できるかぎり懐の内側に深く入りこんで、内部の状況を仔細、把握することが先決だった。  どんなことをしてでも情報を掴んでみせる。採用が決まったときから、群司はそう心に決めていた。そのために今回の採用枠に潜りこんだのだから。

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