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第2章 第2話(7)

 以降、群司はひたすらフェリスに関する情報収集に奔走した。  その内容は、群司が想像していた以上に多岐に及んだ。時間が経つほどに話題性もひろがり、芋づる式にさまざまな情報が集まってきたが、大半は噂や妄想の域を出なかった。  おもてに出まわっている情報だけでは内容が不十分なため、ネットにくわしい友人の力を借りて裏サイトにアクセスし、そこからの情報もかなり集めた。  正直、大量に溢れかえっているそれらの真偽を見定めることは非常に難しかったが、自分に判断できる範囲で信憑性の高いものとそうでないものとを振り分け、網にひっかかったものをさらにくわしく分析して、よりつっこんだ内容を調べあげていった。  時間はかかったが、バイトを辞めているので学業に()てる時間以外をすべて調査にまわすことができる。そうしてフェリスに関する情報を集めていく中で、群司は自分の中に浮かんだ考えが、確信に変わっていくのを実感した。すなわち、兄の優悟は警察官を辞めたのではなく、組織表から消されるかたちで民間に下り、潜入捜査を行っていたのではないか、と。  警察官の潜入捜査は、表向き、法律では認められていない捜査方法である。しかし実際のところ、扱う案件次第では上から指示が下ることもあるという。フェリスが実在し、巷に流布している噂の一部に真実が含まれているとするならば、充分、そういった捜査手段がとられることもありうるのではないかと思った。  調べれば調べるほど、フェリス、フェリシアンに関する噂はただの妄想、フィクションなどではなく、現実味を帯びた存在となっていった。そしてそれゆえ、兄の死の真相はそこに深く絡んでいるのではないかと確信するようになっていった。  あの日、父からの電話を受けたその瞬間から、群司を取り巻く世界は時の流れを止めてしまった。  受け容れられない現実。名状しがたい気持ちの悪さだけが強く残る喪失感。それらはすべて、兄の死にまつわる不明瞭な事柄のひとつひとつが奏でる不協和音から生じていた。それが、ゆっくりと溶解しはじめる。  やがて、浮かび上がったのはひとつの製薬会社。  天城製薬株式会社。  父は変わらず沈黙を保ちつづけている。おなじ組織にいても知ることができないからなのか、それとも、知っているからこそなにも口にできないだけなのか。  群司は決意する。警察はあてにならない。ならば自分の力で踏みこめるところまで踏みこんで、真偽のほどをたしかめてみようと。  薬物中毒死などという不名誉なままで、兄の生きざまを貶めたままにはしておかない。  白日の下に曝すべきものがあるのなら、兄がその生命を賭して守ろうとした正義に照らして必ず暴いてみせよう。そう心に誓った。

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