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第4章 第1話(1)

 大学と研究アシスタントのアルバイト。  群司の日常は、日を増すごとに多忙を極めていった。  就活も本格化している中で、いい加減進路も決めなければならない。母は群司の思うとおりにすればいいとあまりうるさいことは言わないが、それに甘えて悠長にかまえていいはずもなかった。  できれば春休み中のように、平日フルタイムでバイオ医薬研究部に詰めたかったが、卒論のこともあるのでそうもいかない。それでも、必要な単位は三年までのあいだにほぼ履修済みとなっていたのがせめてもの幸いだった。そのおかげで、ある程度の融通を利かせられる。とはいえ、バイトの目的がたんなる小遣い稼ぎという気楽なものではないため、アルバイト中は終始気を張りつめていて、大学でホッとひと息つくという奇妙な生活がつづいていた。 「な~、群司~、おまえ、なんか妙に疲れてない?」  研究室に顔を出すと、ゼミ仲間の須藤(すどう)が声をかけてきた。その隣には、いつもの顔触れのひとりである近松(ちかまつ)もいる。どちらも、群司に『フェリス』の情報をもたらした級友である。 「いや、べつにそんなこともないけど」 「そぉかあ? なんかげっそり(やつ)れてねえ? 目の下クマできてるっつーか」 「卒論のほうはそんな追いこまれてるわけじゃないよな?」 「あ~、まあ。まだそこまでの段階じゃないし」 「え~、おまえ最近、あんまガッコで見かけねえけど、いつもなにやってんの? わりと忙しそうじゃね?」 「まあ、それなりに。っていうか、おまえらだって、そんな暇じゃねえだろ。もう四年なんだから」 「そうだけどさあ。けどおまえ、就活してる気配ないじゃん。いつも私服だし」  須藤も近松も他の同級生たちも、わりとリクルートスーツで大学に顔を出すことも増えているのだという。 「おまえ、進学希望だったっけ?」 「いや、まだ迷い中。ただ、就職するなら、いまのバイト先でそのまま正規採用してもらえるって話も出てる」 「インターンとかじゃなくて?」 「普通にただのバイト」 「え? おまえのバイト先ってどこだったっけ?」 「製薬会社」  社名をぼかしつつ答えると、ふたりは「まじか~っ」とそろって声をあげた。

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