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第4章 第2話(3)

「もちろん凶悪犯罪なんて世界中で連日山のように起こってるわけですし、極端すぎる話をしてるっていうのはわかってるんですけどね」  まるでひとり芝居でもしているようだと思いながらも、群司はしゃべりつづけた。 「でも、事件を引き起こす側の人間に常人には及ばない力や権限がある場合、引き起こされる惨劇は災害レベルじゃ済まなくなる。松木外相の場合は個人が暴走して終わったけど、その暴走が組織レベル、国家レベルになってきたらそれこそ取り返しがつかなくなる。このままいけば、そういうことも充分起こりうるんじゃないかなって」 「君は、いつまでここにいるつもりですか?」  ずっと目線を合わせないまま黙りこくっていた早乙女が、不意に呟いた。 「君は、研究者には向いてない」  言ったあとで、早乙女ははじめて顔を上げ、まっすぐに群司を見据えた。 「できればすぐにも辞めるべきです。こんな道に進むより、その妄想力を()かして小説家でも目指したほうがいい」  きっぱりと断言する。  群司はかすかに息を呑んだ。はじめて自分に向けられた言葉の中に、鋭い棘が含まれていた。 「……随分、攻撃的なんですね」 「聞くに堪えない妄言を一方的に聞かされて、許容できるほど寛容な人間じゃない。お友達気分で馴れ合いたいなら、もっと友好的で、懐の深い相手を選んでは如何ですか?」 「あ~、すみません。ようするに俺は、お邪魔だったってことですね?」 「邪魔です。でもそれだけでなく、君の存在そのものが不愉快なんです」  躊躇なく返されて、言葉を失った。  早乙女の眼差しが、なおも群司をとらえて離さない。その瞳に、かすかな苛立ちと怒りが滲んでいた。 「天城特別顧問に目をかけられて、少し勘違いをしているのかもしれませんが、君にそれほどの価値はない。若さと経験不足からくる根拠のない自信は、見苦しいだけです」  (ねた)みとやっかみが入り交じった言葉。額面どおりに受け取るなら、そういう意味になるのだろう。だが、そうではないなにかが、その言葉の裏に隠されている気がした。

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