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第4章 第2話(2)

「取り押さえられたときの映像、何度か観ましたけど、危険ドラッグかなんかキメてたんじゃないかって、大学のゼミ仲間とも話題になったんですよね。なんか、常軌を逸してたっていうか」  雑談の延長のようなノリで話す群司から、早乙女は顔を背け、頑なな態度で拒みつづけた。 「もし薬物を使用してたんだとしたら、カチノン系の化合物、あるいはTHC(テトラヒドロカンナビノール)あたりじゃないかって思うんですけど、専門家としてはどう思います? 坂巻さんとかにも訊いてみたかったんですけど、このところ忙しそうにしてて」  群司は気安い調子で意見を求めた。  せっかく早乙女とふたりきりで話せる機会がめぐってきたのだ。場の空気が読めない奴と思われようがかまわなかった。相手にされていないことなど気にも留めない、厚かましい人間としてこの場は押しとおすことにした。 「なんか最近、この手の凶悪事件って極端に増えたような気がするんですけど、気のせいですかね。それも各界の著名人とか、社会的にもそれなりの地位にあって、成功をおさめた人たちばかり」  ああいう人たちって、一般人にはわからないストレスがあるのかな。  独り言のように呟きながら、群司はコーヒーを啜った。 「なんていうか、こうも陰惨な事件がつづくと、あらぬ妄想を掻き立てられちゃったりしません? 一部の特権階級の人たちだけが享受できる特定の『なにか』に、そういう作用を引き起こすなんらかの原因があるんじゃないか、とか。三文小説のネタみたいで、理系の人間が言うことじゃないですけど」  群司が思わせぶりな視線を投げかけても、早乙女はテーブルに視線を落として無反応を通しつづけた。 「杞憂かもしれないけど、このままエスカレートしないといいなって思うんですよね。たとえば核所有国のトップがうっかり理性失って核ボタン押しちゃった、みたいなことになったらシャレにならないじゃないですか。弾道ミサイルの発射ボタンでもいいですけど」  静まりかえった空間で、群司の声だけが響く。  話を聞いているのかいないのか、早乙女の人形のような無表情から窺うことはできなかった。

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