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第5章 第1話(1)

 五月中旬の日曜日、兄、優悟の一周忌法要が執り行われた。  親類縁者などは呼ばず、父と母、群司の三人だけでお寺に(もう)で、お経を上げてもらった。  墓参りのあと、どこかで食事かお茶でもという話になったが、群司は同席する気になれず、用事があるからと寺の門を出たところで両親と別れた。  実際のところはこれといった予定があるわけでもない。目的も定まらぬまま、とりあえず駅の方角に足を向けた。  もう一年と言えばいいのか、まだ一年と言えばいいのかよくわからない。  正直、いまでも突然携帯に連絡が来るのではないかと思うことがある。ひょっこり家に立ち寄ることさえあるのでは、と思うことも。  もともと離れて暮らしていたので、兄の不在はこれまでと変わらない部分があった。だが、もう二度と会うことはかなわないのだと思うと、そこだけがぽっかりと大きな穴が空いたようで、自分の心にどう折り合いをつければいいのかわからなかった。  まだ働き盛りで、簡単に終わるような人生ではなかったはずだった。  兄と自分との年齢差は十歳。それがいまは、九歳差に縮まってしまった。あと九年も経てば追いついてしまい、それを過ぎれば追い越してしまう。兄はこの先もずっと、三十一歳から年を重ねることはないのだ。それがやるせなく、受け容れがたかった。  フェリスの存在を知ってから、ひたすら真相を探るべく突き進んできた。いまもその途中で、普段は余計なことなど考える暇もない。だがこんな日は、日頃意識の外に追いやっている感情が抑えこめないほどの奔流となって己の裡を満たし、うまく処理することができなかった。  持って行き場のないこの感情は、いつか昇華して、静かに受け止めることができるようになるのだろうか……。 「八神くん?」  不意に声をかけられて、群司はハッとした。  振り返ると、すぐ後ろの車道に黒塗りの車が停まっていて、その傍らに、見覚えのある人物が立っていた。 「天城顧問……」  ローズピンクの上品なデザインのワンピースに身を包んだ天城瑠唯は、群司を見て、やわらかな笑みを浮かべた。

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