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第7章 第1話(5)
最初に到着したのは坂巻班の豊田で、一緒にやってきたのは天城製薬の警備員たちだった。そしてわずかに遅れて、通報を受けたらしい警察官が群司たちの許へたどり着く。
豊田の指示で警備員たちは後方に下がり、集まりはじめた野次馬たちの整理にあたりはじめた。
「新宿署の者ですが、お話、聞かせてもらえますか?」
警官のひとりが身を屈 めて群司が取り押さえている男に声をかける。一緒に来たふたりの警官が両サイドに来て男の腕をとったので、群司は男を解放し、立ち上がった。
「八神くん、大丈夫?……って、うわっ!」
近づいてきて群司に声をかけた豊田は、直後に声をあげた。
「君、怪我してるじゃないか!」
「え?」
言われて、群司はあらためて自分の躰を見下ろし、左の二の腕から流血していることに気がついた。突進してきた男を躱す際、刃先が腕を掠っていたらしい。
「ああ、夢中で気がつきませんでした。たいしたことないんで大丈夫です」
「いやいや、ダメだよ、それ。結構出血してるから。ちゃんと手当てしないと」
豊田は自分が傷を負ったかのように顔を蹙めた。その会話を聞いていた警官のひとりが近づいてくる。最初に男に声をかけた人物だった。
「大丈夫ですか? 当事者のおひとりとして、できれば今回の経緯についてお話を伺いたかったんですが、あとにしたほうがよさそうですね」
「そうしてください」
群司が答えるまえに豊田が返答した。
「とりあえず八神くんは、会社の医務室で診てもらって、必要があれば病院に行くってことで」
「あ、いや、でも……」
「大丈夫、僕が付き添うから。部長にも連絡しておくし」
「はあ……」
思いのほかキビキビと指示されて、群司はなし崩し的に了承させられるかたちとなった。
「とりあえずお名前だけ伺っておいてもいいですか? あと、できれば連絡先も」
「あ、はい」
警官に言われて、群司は頷いた。
「八神群司です。桂華大学の四年生で、天城製薬のバイオ医薬研究部で研究アシスタントをしています」
「研究アシスタント?」
「部内の雑用的なアルバイトっていうか」
「ああ、アルバイト。なるほど、社員の方ではないんですね。学生さん」
「そうです。連絡先は――」
「あの」
やりとりをしているさなかに、遠慮がちな声が割りこんできた。振り返った先で佇んでいたのは、早乙女だった。
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