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第7章 第1話(6)

「早乙女さん、大丈夫でした? 怪我は?」  群司の問いかけに、早乙女はなんともないとそっけなく答える。だがその顔色は、いくぶん蒼褪め、覇気のないものとなっていた。 「事情聴取なら私がご協力します。彼はただの通りすがりで、本来の当事者は私なので」 「え? あ、そうなんですか?」 「天城製薬薬理研究部で研究員をしております、早乙女です」  名乗ったあとで、豊田に目配せをする。豊田は心得た様子で警官に挨拶をした。 「それでは、あとのことはこちらの早乙女に任せることにして、我々はこれで失礼させていただいてもよろしいですか? 必要があれば、バイオ医薬研究部にご連絡いただければ対応できるように話を通しておきますので」 「あ~、そうですね。お引き留めして申し訳ありませんでした。救急要請は……」 「大丈夫です。あとはこちらで対応しますので」 「わかりました。お大事にどうぞ」  警官の了承を得て、豊田は群司の背中に手を添え、行こうかとうながした。早乙女の様子が気になったが、これ以上この場に群司が留まるのも不自然な話だった。  しかたなく、失礼しますと豊田に従う。踵を返す際、こちらを見ていた早乙女の視線とぶつかったが、群司がそれに気づいた途端、さっと逸らされてしまった。  早乙女にしては、めずらしくなにか物言いたげだったように思う。だが、警官に向きなおったその横顔はいつも以上に頑なで、全身で群司を拒絶しているように見えた。 「八神くん」  気遣うように豊田に名を呼ばれて、群司は無意識のうちに足を止めていたことに気づく。 「あ、すみません」  傷が痛むかと問われて、大丈夫だと応じた。  あらためて豊田にうながされてその場を離れる。  目を逸らされる寸前、自分を見ていた早乙女の表情が、脳裡に焼きついていた。

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