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第7章 第2話(1)
騒ぎのあった翌日、病院に寄ってからバイオ医薬研究部に顔を出すと、部長の門脇に呼ばれた。
昨日は結局、会社の医務室で応急手当を受けた後、産業医に付き添われて近くの大学病院に行くことになった。
そこで治療を受けて、その日はそのまま帰宅。本来であれば今日はバイトの予定は入っていなかったのだが、ちょうど教授の都合で大学の授業が休講になったため、挨拶がてら顔を出したという次第だった。
「昨日は大変だったね。怪我の具合は?」
「大丈夫です。たいしたことはないので」
豊田と産業医の辻口から報告を受けているだろう門脇に、群司はお騒がせして申し訳ありませんでしたと頭を下げた。
「いやいや、とんでもない。十四針も縫ったと聞いたよ? 親御さんもさぞ驚かれたことだろうね。会社の問題に巻きこんでしまって申し訳なかった」
報告を受けて肝が冷えたと門脇は眉根を寄せた。
「いえ、会社とまったく無関係の騒ぎだったとしても、その場に居合わせたら普通に首つっこんじゃってたと思うんで、完全に自己責任です。考えが足りませんでした」
「そんなことはない。おかげでうちの社員が助けられた。早乙女くんも昨日、私のところへ謝罪に来てね」
「早乙女さんが?」
群司は思わず問い返した。
「自分のせいで申し訳ないことをしてしまったと彼もだいぶ気に病んでいたようだよ」
言ったあとで、門脇はあらためて確認するように群司の意向を尋ねた。
「直接被害に遭ったのは君なんだから、相手を罪に問うこともできる。なかったことにしてしまって本当によかったのかな?」
それに対して群司は「そうですね」と穏やかに応じた。
「先方にもそれなりの事情があったようですし、またおなじことを繰り返さないと約束してもらえるなら、あまり大ごとにしなくていいかなと思ってます」
昨日のうちに会社のほうから群司に確認の電話が入り、その旨を伝えてあった。
理不尽なかたちで身内を喪う辛さは群司にもよくわかる。自分はだから、こうして真相を探りつづけているのだから。
「あの、ひょっとして早乙女さんは、相手の方の刑事処分を求めてらっしゃるんでしょうか?」
「ああ、いや。そんなことはないと思うよ」
門脇はすぐさま否定した。
「ただ、自分を庇ったことが原因で君が大怪我をしてしまったからね。そのことをだいぶ悔やんでいるようで」
あの早乙女が、という言いかたをしたら失礼かもしれないが、なんだか意外な気がした。その反面、最後に自分を見ていた、物言いたげな表情が甦る。
「だから、よかったらあとで、薬理研究部にも顔を見せにいってやってくれるかな。君の顔を見れば、早乙女くんも少しは安心するだろうから」
「あ、はい」
門脇に言われて、群司は了承した。
「事情聴取も結局、早乙女さんに全部お任せしちゃったんで、このあとご挨拶がてら、ちょっと寄ってみます」
そうしてくれるかいと門脇は頷き、それから、と机の引き出しを開けて紙袋を取り出した。
「これ、天城特別顧問から君に、見舞いの品だそうだ」
「え?」
「昨日のうちに上層部 にも報告がいったようでね。夕方、どういう状況かと問い合わせがあったんだが、今朝になって君に渡してほしいと届けられた」
「あ、いや。そんなことしていただくわけには……」
「気持ちだから受け取っておきなさい」
遠慮する群司に、門脇は紙袋を差し出した。見るからに高級そうな、洋菓子の詰め合わせらしき包みだった。
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