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第10章 第1話(4)

「兄貴は、天城製薬が裏で行ってる悪事を暴く側の人間だったけど、おなじ組織の中で、それを快く思ってない人間も確実に存在してる。それは、あなたにも言えることなんじゃないですか?」  正面からぶつけられた問いかけに、早乙女の表情は揺らいだ。 「こうなった以上、俺だけでなく母親も狙われる可能性は当然あるだろうし、警察組織の人間だからといって、親父も安全でいられるとはかぎらない。もう、引ける状況にはないんですよ」 「それは……、でも……」 「俺の場合、坂巻さんのこともあります」  群司の言葉に、如月はかすかに緊張の色を滲ませた。 「あの人の裏にだれがいるのかたしかめなきゃならないし、なぜあんなことをしたのか、その真意もたしかめないといけない。それとも、琉生さんが教えてくれますか? あの居酒屋にいたのは、そのことと関係してますよね」  途端に離れていこうとする如月の手を、今度は群司が捕らえて握りしめた。 「あなたが教えられないというなら俺は自分で調べますけど、それでもかまいませんか?」 「それはっ」  言いかけたあとで、如月は観念したように小さく息をついた。 「正直なところ、彼の裏で糸を引くのが天城顧問なのか、それ以外のだれかなのかはまだわからない。だけど彼にはずっと、マージナル・プロジェクトに関する情報を探っているような動きが見られた」 「一般の社員は知らないはずの情報なのに?」  群司の問いかけに、如月はそうだと応じた。 「坂巻さんは、プロジェクトメンバーではないですよね?」 「そのはずだと思う。少なくとも、俺は知らされていない」  むろん、如月に知らされていないだけということもあり得る。だが、それならば坂巻がプロジェクトについて嗅ぎまわる意図がわからなかった。内部の人間であるのなら、その必要性はなく、むしろ知らないふりをするだろう。  おそらく、坂巻がプロジェクトに関与しているということはないと思われる。それならばなぜ坂巻は、社内の極秘プロジェクトについて知り得たのか。  如月は、その点も踏まえてつねづねその動向に注意していたという。 「だからあの場所に?」  如月は頷いた。 「君がプロジェクトに関与することが決まった直後に余人を交えずというのは、不自然な気がして」  そこまで注意を払っていなかった己の軽率さが悔やまれた。 「すみません、俺、坂巻さんにはずっとよくしてもらってて、完全に油断してました」  社内でも終始孤高を貫く如月は、特定のだれかと深く関わることなく、社員すべての動向に注意を払ってきたのだろう。だからこそ、坂巻の不審な動きにも気づけた。

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