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第10章 第1話(6)

 群司は如月の手を握りしめた。 「琉生さんが俺のことを心配してくれてるのはわかります。でも、俺は兄貴の犠牲を無駄にしたくないし、潔白を証明したい。だから俺にできることを手伝わせてほしいんです。無茶は絶対にしないし、あなたの邪魔もしない」 「だけど……」 「琉生さんだって、自分の知らないところで俺が勝手なことをするより、目の届く範囲に置いておいたほうが安心できるでしょう?」 「おまえがなにもしなかったら、もっと安心できる」 「それは却下です」  どこまでも蚊帳の外へ追い出したがる如月に、群司は苦笑交じりに即答した。 「すでに狙われちゃってる身としては自衛のためにも動かざるを得ないので、そこは大目に見てください」  ついでに、と群司は付け加えた。 「さっきも言ったとおり、厚労省の中にも天城製薬の息がかかっている人間は必ずいるはずです。だれが敵で味方かわからない状況の中、ひとりで頑張りつづけるのは限界がありますよね? 背中を預ける人間としては頼りないかもしれないけど、俺にだってあなたの背後を見張るくらいのことはできる。だから協力させてください」  群司の顔を、如月はじっと見つめる。それからポツリと呟いた。 「おまえ、ズルい」  それが、了承の言葉だった。  平日の昼間を天城製薬の社員として過ごす如月は、夜と休日の時間を使って捜査官としての任務をこなす。ここしばらくは、暗号解読とデータ解析に時間を費やしているとのことだった。 「優悟さんの携帯に入ってたデータで……」  メモリーカードに入っていた情報を自身の端末に移し替えて作業をしているという。 「どのくらい進んでます?」 「まだ半分くらい」  機密情報を守るため、何重ものロックがかけられており、開いたファイル自体も暗号化されていて解読に時間がかかっているという。組織の専門部署に解析を頼むことも考えたが、如月自身も身内の中にひそむ敵対者の存在を懸念して、自力で作業を進めることにしたらしかった。優悟から託された大切なデータを、他者に預けることは絶対にできないと思ったという。群司は、その解読作業を手伝うことにした。 「ほら、俺はまだ学生なんで、時間に余裕もありますし」 「でも学生の本分は学業だろ」  手伝わせたせいで、その本分が疎かになっては困ると、如月はなおも気の進まぬ様子を見せた。 「大丈夫です。両立させればいいんですよね? 何度も言いますけど、俺、こう見えて結構優秀なんで」  余裕たっぷりに答えた群司に、如月は可愛くないと口を尖らせた。それでも、任せる気にはなってくれたようである。これまでの作業手順と進捗状況をくわしく説明してくれるとともに、マンションの合い鍵も渡された。自分がいないときでも、自由に出入りしてかまわないとのことだった。

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