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第12章 第1話(1)
結局、藤川の身柄を保護することはできなかった。
新宿署の大島の要請で、近隣の派出所と渋谷警察から複数名の警官が出向いてくれたのだが、彼らと合流するまえに藤川を見失ってしまったのである。
繁華街をフラフラと歩いていた藤川は、不意に雑踏を避けるように細い路地へと入りこんだ。人ひとりがやっと通れるような道幅で、向こう側に抜けるまでの距離も短かったため、ひとまず藤川が通り抜けてからあとを追ったのだが、大通りに出たところでその姿は忽然と消えていた。
ほどなく合流した大島にも事情を説明し、群司は己の不手際を詫びた。
「いやいや、気にしないでください。情報をいただけただけでも、充分助かりましたから」
あとのことは渋谷署の警官と大島の部下たちに任せることにし、群司は大島に伴われて新宿署に出向くことになった。
あらためて藤川を見つけたときの状況と、あとをつけた際の経路についてくわしく説明する。ひろげた地図に印をつけながら、大島は丁寧にメモを取っていった。
見かけた際の様子、表情、目つき、服装、歩きかた等。ついでに尾行途中で撮った写真も提供しておいた。後ろ姿とわずかにこちらのほうへ顔を向けた横顔と。いずれも遠目ではあったが、充分参考にはなるという。
「たしかに藤川本人で間違いないみたいですね。だいぶ窶れて面変わりしてますけど」
写真を眺めながら、大島はよく気がつきましたね、と感心したように言った。そして話の延長のように、そういえば捜査一課 の秋川管理官のご子息だとか、と付け加えた。いずれはバレるだろうと思っていたので、ええ、まあと適度に言葉を濁して肯定する。あまり立ち入るつもりはなかったのか、群司の態度から察するものがあったのか、それ以上は踏みこまずに藤川の話題に戻してくれたのがありがたかった。父との関係を知った以上、当然、兄のことにも気づいているのだろう。
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