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第14章 第2話

「ん……」  寝返りを打った如月の瞼が、ゆっくりと開いた。 「琉生さん、気がつきました?」 「あ、俺……」  喉から搾り出される声が掠れた。 「ごめんね、大丈夫?」  ベッドサイドに座って如月の顔を覗きこんだ群司は、手にしていたペットボトルの水を煽ると、屈みこんで口移しに如月に飲ませた。 「すみません、俺、これから創立記念パーティーに乗りこむのに、すっかり夢中になって無理させちゃった」  額と額を合わせながら指の腹で口唇を拭われ、頬を撫でられて如月はうっとりと目を閉じる。 「だい、じょうぶ……。いま、何時?」 「十五時まわったところです。昼飯、食べそこねましたね。なんか買ってくる?」 「いらない」 「シャワーは?」 「先、行ってきていい」 「わかりました。じゃあ、お先に」  気怠げに横たわったままの如月にもう一度キスを落とし、手にしていたペットボトルをすぐわきのナイトテーブルに置くと群司は浴室に向かった。  正直、このタイミングで如月とこういう関係になるとは思ってもみなかった。  廉価版のフェリスを手に入れるために群司が動いたことで、如月の機嫌を損ね、関係が拗れることまでは覚悟していた。だが、まさかそこで、泣かせてしまうとは夢にも思わず、そこからさらに身体の関係に至るとは想定すらしていなかった。  熱い湯を頭から浴びている最中にも、自分の名を繰り返し呼ぶ甘えた声が耳の奥で甦る。 「くっそ、なんだよあれ。可愛すぎだろっ」  だれにともつかず口の中でぼやいて、掻き毟るように頭を洗った。このあとの予定がなければ、明日の朝まででも抱いていたいくらいだった。だがそういうわけにもいかない。  手早くシャワーを済ませて、持ちこんであるスウェットの下だけを履いて寝室に戻ると、如月はまだベッドの中でうとうとしていた。  飲み途中だった水の残りを飲み干してベッドに腰掛け、薄い色合いの髪をそっと撫でると、掌の感触を楽しむように頬を擦り寄せる。そして、なにも言わずに群司に向かって両手を差し伸べた。  求めに応じて群司が身を屈めると、 如月は自分から抱きついてくる。その抱擁を受け止めて隣に横になり、逆に抱き返すと、腕の中におさまった如月は安心したように息をついた。 「琉生さん、疲れちゃった? シャワー浴びなくて大丈夫?」 「まだ平気。もうちょっと、このままでいたい」 「了解です。五時頃に出れば間に合うよね? 四時過ぎたら起こしてあげるから、眠かったら寝ちゃっていいですよ」 「うん……」  群司に身を寄せた如月は、あっという間に微睡(まどろ)みの中に身を委ねていった。  規則正しい寝息としっとりとした肌のぬくもりが心地いい。  兄を想いつづける如月の中に、自分が入りこめる隙はないと思っていた。如月が自分を受け容れているのは、ただたんにおなじ目的を持つ同志としてのもの。ともに過ごす時間が増えれば、そのぶんほだされてくれるところもあるだろうが、最終的には自分ひとりの一方通行で終わるのではないか。そんな気がしていた。それなのに、自分を求め、想いに応えてくれた如月が腕の中にいる。  愛おしくて、だれより大切な存在。  子供のようにあどけないその寝顔に、群司は口許を綻ばせた。

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