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第16章 第2話(2)
舞台袖から、またあらたに別の男たちが登場する。全部で三名。スタッフではない。如月同様、素肌にガウンを纏っただけの、獣のような気配を漂わせた男たちだった。如月を陵辱する連中だと、ひと目でわかった。
「琉生さんっ!」
短い時間で変貌を遂げた藤川のときとは異なり、如月の肉体にはまだなんの変調も見られない。だがそれは、目に見えている部分だけで、体内では、そして薄衣で覆われた下腹部では、すでに変化がはじまっているということなのか。
「嫌だっ、やめろ!」
群司は暴れつづける。
「静かにしろっ!」
制御装置と思われる機器の置かれたデスクのまえに座っていた男が、立ち上がって大股に近づいてくると群司の腹部を蹴り上げた。一瞬息が詰まって、視界がスパークする。ややあってから苦痛が一気に押し寄せ、派手に咳きこむが、肉体の痛みなどどうでもいいことだった。
どうすれば救えるのだろう。
怒りと、焦りと、絶望と。
兄のあの動画を見たとき、もう決してこんな犠牲者は出すまいと心に強く誓った。だが藤川は、一瞬のうちにあれほどの変貌を遂げ、如月もまた、おなじようにフェリスの洗礼を受けようとしている。
自分は指を咥え、ただこんなところに転がりながら舞台で行われていることを眺めていることしかできないのか。
かつて味わったことのない無力感に苛まれ、それでも自分にできることはないかと必死で思考を巡らせる。
焦燥と絶望に押し潰されそうになる中、画面の向こうでガウン姿の男たちが、ベッドで悶える如月に近づいていった。
やめろ。やめろっ。その人の触れるな……っ。
だが不意に、一度しりぞいた黒服の男たちが舞台上にあわただしく駆けこんできた。
その中のひとりがなにごとかを告げると、ベッドサイドにいた男たちの顔色が変わる。同時に、群司たちのいる管理室にもあわただしいノックが響いた。
群司を蹴り上げた男が、苛立った様子で乱暴にドアを開けた。
「なにごとだっ?」
出入り口に立ったままドア向こうの相手と小声で交わすやりとりに、ただならぬ気配が漂っていた。
会話の内容までは聴き取ることができない。それでも不測の事態が発生したことは間違いなかった。おそらくは、舞台に黒服の男たちが駆けこんできたのもおなじ理由だろう。
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