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第17章 第1話(5)

「なんか、群ちゃん捕まえたとか、警察が家宅捜索の名目で押し入ってきたとか聞こえてきてさ。いてもたってもいられなくなっちゃったんだよね。罪滅ぼしっていうわけじゃないけど、格好悪いとこ見せたままで終わりたくないなぁって。俺、やっぱり群ちゃんのこと好きだからさ。いまさらかもしれないけど」  群司はぐっと拳を握りしめ、口唇を噛みしめる。  自分の知る坂巻は、こんなにも弱々しく笑う人間ではなかったはずだった。 「俺も坂巻さんのこと、好きですよ? 一緒に過ごせて楽しかったし、いろいろ気にかけてもらったり、相談に乗ってもらったり。すごく頼りになる先輩で、尊敬してて、いまでもその気持ちは変わらないです。助けに来てくれて、ありがとうございました」 「うん、こっちこそありがとね」  坂巻はすっきりした表情で言うと、群司をうながした。 「劇場のね、正面左手の舞台袖に隠し扉があるんだ。左側の奥のほう。本邸の地下に通じる連絡通路があって、その先に、薬物実験の被験者を閉じこめる監禁部屋がいくつもある。俺もそこにずっと閉じこめられてた。早乙女くんね、おそらくそこに連れてかれたんじゃないかと思うんだ。人目につかずに移動できる最善のルートだから」  言って、坂巻は群司に鍵の束を押しつけた。 「この、ひとつだけ形が違うやつが隠し扉の鍵。それで番号のついてるやつが、それぞれの監禁部屋の部屋番号と対応してる鍵」 「ありがとうございます。坂巻さんは先に、安全な場所に避難してますか? いまならたぶん、混乱にまぎれることもできると思うので」 「いや、いいよ。俺はここにいる」  思いがけない返答に、群司は目を瞠った。 「え、でも、このままここにいるのは……」  いつだれが戻ってきてもおかしくない状況であるうえ、入り口で倒れている男が目を覚まさないともかぎらない。 「うん。けど俺、たぶんもう限界だから」  空調が効きすぎているわけでもないのに、坂巻はふるえていた。それなのに、大量の汗をかいている。 「坂巻さん、具合が……」 「監禁されてたあいだ、俺も結構いろんなの投与されちゃってたからね」  群司は息を呑んだ。 「そんな……」

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