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第17章 第2話(7)

「ところで彼は……」  群司の腕の中でぐったりとしている如月に、豊田は気遣わしげな視線を向けた。その理由を察して、群司はたぶん大丈夫だと思うと答えた。 「劇場で飲まされた薬が原因ですが、おそらくフェリスとは別の、催淫作用をもたらす類いのものだったんじゃないかと思います」  その答えを聞いて、豊田は大きく胸を撫で下ろした。 「そうか、それならよかった」 「あくまで素人判断なので、完全に安心はできないですけど」 「それでも確実に飲まされてるよりいいよ」  豊田の言葉に、群司はそうですねと頷いた。 「あの、豊田さん、管理室に坂巻さんが」 「大丈夫。ついさっき保護したから。発信器、主任に預けてくれたでしょう? そのおかげですぐに場所を特定できたからね」  あれはやはり、そういう用途で間違いなかったのだと安堵した。 「それから盗聴機能もつけてあったから、八神くんを通じて、重要な会話のすべてを録音することもできた」  それらがすべて証拠になると聞いて、役に立てたことを喜ばしく思う反面、別の意味で冷や汗が出た。坂巻に預けず自分で携行していたら、如月とのいましがたのやりとりも、すべて聞かれていた可能性があったことに気づいたからだ。  天城嘉文との会話を聞いていたからこそ、豊田は如月の飲まされた薬がフェリスではなかったことに安堵したのだろう。思うと同時に、豊田に対して疑念が生じる。その途端、 「飲まされた薬の種類に関係なく、も早く病院に搬送したほうがよさそうだね」  豊田のひと言に、群司は息を呑んだ。天城製薬の社員でありながら、豊田は如月を『早乙女』ではなく本名で呼んだ。 「あの、豊田さん……」 「失礼。麻薬取締官の立花です」  豊田――否、立花と名乗った男は、上着の胸ポケットから警察手帳によく似た身分証を取り出した。群司に向かって中を開いて見せた証明写真の下に、厚生労働省司法警察員、麻薬取締官・立花英明とある。所謂、麻薬取締官証と呼ばれるものだった。そういうことだったのかと、ようやくすべてが腑に落ちた。  如月を搬送できる場所まで案内するという立花に従って、群司はあとにつづいた。坂巻もひと足先に病院に運ばせていると聞いて、いくぶん安堵する。 「坂巻さん、大丈夫でしょうか」 「だいぶ衰弱が激しかったし、実験と称していろいろ投与されていたようだからね。正直なところ大丈夫とは言いきれないけど、きちんと治療を受けて、元気になってほしいと願ってる」  長年、仕事をともにしてきたその言葉には、部下として上司を思う気持ちがこめられていた。 「俺もそう思います。それでまた、飲みに誘ってほしいです」  立花はそうだねと笑った。

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