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第18章 第1話(3)

「まだしばらく、忙しい状況はつづくんですか?」 「うん。でもいちばんの山場は超えたから、泊まりこみとか休日出勤はなくなると思う」 「お疲れさまでした」  群司がねぎらいの言葉をかけると、如月はほっとしたように吐息を漏らした。 「じゃあ今日は、久々に俺が夕飯作りますね。だんだん寒くなってきたし、鍋とかどうですか? 野菜たっぷりで、躰もあったまるでしょう?」 「うん、いい」  頷いたあとで、ふと顔を上げて群司を見上げる。 「今日、泊まってく?」  上目遣いで見つめてくるその可愛さに、理性が試されているような気分になった。 「俺は平気ですけど、琉生さんはさすがに、今回の休みはゆっくりしたほうがよくないですか?」 「いましてる」 「いや、でも、ひとりのほうが気を遣わないで眠れるだろうし、さすがにこの一ヶ月無理しすぎてるから、いい加減身体休めないと」 「群司、忙しい?」 「いやいや、俺は全然。そうじゃなくて琉生さんが――」 「じゃあ、一緒にいたい」  とんでもない威力の殺し文句にハートを撃ち抜かれて、群司は即座に全面降伏して白旗を揚げた。 「わかった! わかりました。俺も一緒にいたいです。一ヶ月ぶりにやっと会えたし、本音の部分で言えば、会えなかったあいだの琉生さん不足を思いっきり充電したい気持ちでいっぱいなんで」  言いながら、手にしていたカップをローテーブルに置いて両手をひろげると、如月も自分のカップをおなじようにテーブルに置いて腕の中に飛びこんできた。その躰を笑いながら受け止めて、群司はソファーに一緒に寝転がる。 「知らなかった。琉生さんって意外と甘えたがりだったんですね」  肉の薄い背中に腕をまわし、やわらかな髪を梳き上げながら言うと、如月は群司の胸に顔をうずめながら俺も知らなかったと答えた。 「年齢とか関係なく、精神的にはおまえのほうがずっと大人だからすごく安心する」 「そう? 俺、そんなできた人間じゃないけど」 「そんなことない。おまえにいつも支えられて、すごく助けられてる」 「だったら嬉しい。俺の立場でできることって、まだ全然かぎられてるから」  群司が言うと、如月はなにかに思いを馳せるようにポツリと呟いた。 「まだ学生なのに、あそこまでやるなんて、おまえはやっぱりすごい」 「それこそ琉生さんがいてくれたからですよ。俺ひとりだったら、到底無理でした」  まあ、親にはメチャクチャ怒られたけど、と群司は笑った。それを聞いて、如月は心配そうに顔を上げた。

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