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第18章 第2話(1)

「ぐんじ、これ、やだ……。怖い。はずし…て……っ」  ベッドの上で、如月が弱々しく訴えた。頭の上にある両腕は、手首のところで括られてパイプから伸びているチェーンに繋がれていた。両手首をまとめ上げているのは、黒い革ベルトである。 「まだダァメ。最初に俺にやったの、琉生さんでしょ」  不安そうに身じろぎする如月を、群司はやんわりと制してその顔を覗きこんだ。 「一回目はともかく、二回目のあれはさすがにひどいよね? ようやくあなたを手に入れることができて幸せな気持ちでいっぱいだったのに、気づいたらあなたはどこにもいなくて、俺はこの部屋から出られないように拘束されてて」 「だって……」 「真っ暗な部屋の中で目が覚めたときの俺の気持ち、わかる?」  群司が尋ねると、如月は口唇を噛みしめて黙りこんだ。 「ひょっとして俺を油断させて、薬を盛るために琉生さんは俺に抱かれたのかなって、そんなことまで考えちゃって」 「ちっ、ちがっ!」  あわてて反論しようとした途端に拘束された両腕が大きく揺れて、ガチャンという大きな音を立てた。 「ああ、ダメダメ、暴れないで。皮膚が(こす)れて怪我しちゃう。あなたを傷つけたいわけじゃないから。ただちゃんと、理由を聞きたかっただけ。なんとか鍵をはずしてギリギリ現場に駆けつけることができたけど、もし俺があのまま朝まで爆睡してたり、途中で目が覚めたとしても身動きとれないままだったらって、そう考えるだけで怖くなるときがいまでもあるから」 「ごめ、ん……」 「謝らなくていいですよ。あなたにはあなたなりの考えがあったんでしょう? でもね、もしこれが兄貴だったら、あなたがああいう行動に出ることはなかったんじゃないかなって思ったりもして、それがすごく悔しかったんですよね。俺、そんなに頼りなかった?」  群司を見つめたまま、大きくかぶりを振った如月の瞳から涙が溢れ落ちた。  ここまでが限界かなとその様子から判断した群司は、ベルトに手を伸ばしてバックルをはずすと、拘束の解けた躰を抱きしめた。 「ごめんね、乱暴なことして。琉生さんときどき、びっくりするくらい無茶なことやらかすから、ちょっとお仕置きって思ったんだけど、やりすぎちゃったね。大丈夫? 手、痛くない?」 「痛くない」  群司の躰に縋りついた如月は、胸に顔をうずめたまま洟を啜った。そんな如月の背中をあやすように軽く叩いた群司は、ごめんごめんと小さく笑った。

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