210 / 234

第18章 第2話(3)

「だ、だからっ、最初におまえをこの家に連れてきたときに思いついたから」 「天城製薬から手を引かせるために、監禁を装って脅すつもりだったっていうあれですよね? でも、思いついたことを実行に移せる用意はあったってことじゃないですか」 「だからそれは、おまえが寝てるあいだに買ってきたから」  食料品や衣類、家電までを手広く扱っている二十四時間営業の有名ディスカウントストアの名前を出されて、一瞬ポカンとした群司は直後に吹き出した。 「ちょっ、あの店って、こんなのまで売ってるんだ。っていうか琉生さん、思いついたからってほんとに買いに行っちゃうとか、おもしろすぎでしょ」 「だってっ」 「もう、ほんと可愛いなぁ。こんなに優秀で頭も切れるのに、変なとこで突拍子もないことしでかすよね。それこそ危なっかしくて目が離せないっていうか」  大笑いする群司に、如月は拗ねたように頬を膨らませた。 「でもよかった。元彼の趣味が拘束プレイだったとかじゃなくて」 「だから違うっ、そんな相手いなかったっ。付き合ったのもこんなことしたのも、おまえが全部はじめてっ」 「ん? なに、どういうこと? 俺がはじめて?」  言われたことをあらためて反芻した群司は、そこであることに思い至ってガバッと起き上がった。 「えっ、ちょっ、嘘でしょっ!? 俺がはじめてって、それまで付き合ってた相手はいなかったってこと!?」 「いない。だれとも付き合ったことない」  群司は愕然となって言葉を失う。 「えっ? えっ? 待って。こないだ俺としたとき、はじめてじゃなかったですよね? だとしたら、特定の恋人とかはいなかったけど、躰の関係のある相手はいたってこと? ――って、あ~、責めてるわけじゃないから、そんな顔しないで」  ベッドから身を起こした如月の顔を見て、群司はあわててとりなした。 「べつに批難してるとか、そういうんじゃないから。ただ、このあいだのとき、普通に慣れてる感じがしたから、きっとそういう相手がいたんだろうなって勝手に思ってて。それに琉生さん、気軽にだれとでも遊べるタイプじゃないでしょう?」  群司の言葉に如月は俯いた。 「でも、付き合ってない相手と、その場かぎりの関係があったのはほんとだから」 「ちゃんと好きになれる人、いなかった? 琉生さんみたいな魅力的な人なら、周りが放っておかなかったでしょう?」 「なんかそういうの、苦手で」  如月は俯いたまま、消え入りそうな声で答えた。

ともだちにシェアしよう!