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第18章 第2話(4)
「普通の人付き合いもうまくできないのに、そういう目で見られるのがどうしても嫌で、学生のときはずっと逃げてて。でも社会人になったら、ときどき無性に独りでいるのが耐えられないときがあって」
「すごく神経遣う仕事だもんね。だれかにそばにいてほしくなることだって、そりゃああるでしょう」
気遣うように群司が言うと、如月は消沈した様子で頷いた。
「それでそういうときに、相手を見つけたの?」
「仕事帰りに食事しに入った店で、たまたま隣り合わせたサラリーマンに声かけられたことがあって……」
なんとなくなりゆきで、誘われるままホテルに行ったという。
「向こうもその場かぎりみたいな感じだったから、それならいいかなって」
「人肌が恋しかった?」
「仕事ですごく疲れてて、発散したかっただけ」
「そっか」
静かに応じた群司の顔を、如月は不安げに見つめた。
「軽蔑、する?」
「なんで? しないよ。だれにだってそういうときはあるでしょ?」
「でも、誠実じゃない」
「俺もいままで付き合ってきた相手って、なんとなくまあいいかって軽い感じで受け容れてたとこあったから全然誠実じゃなかったよ? 琉生さんを好きになってはじめてそういうのに気づいて、申し訳なかったなって反省中」
群司は笑いながら如月の手を取って、そっと握りしめた。
「琉生さんの恋愛対象って、昔から同性だったの?」
「わかん、ない。でも女の人だと、自分がリードしないといけないし、関係持ったらそれなりの責任も取る必要が出てくるから、そういうの、ちょっと煩わしくて」
「後腐れのない同性のほうが気が楽だった?」
「仕事柄、特定のだれかと深く関わるのも難しかったから」
「そうだよね。ああいう仕事してたら、私生活で制限されることもいろいろ多いだろうし、素性だってそう簡単には明かせないもんね」
群司は如月を引き寄せると、その躰を抱きしめた。
「でもよかった。そのおかげで琉生さんがフリーでいてくれたから、俺のことも受け容れてもらえた」
「もう、怒ってない?」
「はじめから怒ってないですよ? っていうか、俺が琉生さん相手に本気で怒れるわけないじゃん。こんなにベタ惚れで、大切に思ってるのに」
そう言って、頭に口づけを落とす。
「群司」
群司に抱きしめられながら、如月は甘えるように躰を擦り寄せた。
「うん? なに?」
「仲直り、したい」
怒っていないという群司の言葉を疑っているわけではないのだろうが、如月は訴えた。少しでもわだかまりとして残りそうな部分を、完全に取り除いておきたいのだろう。
「いいよ、仲直りしよう。ふたりでいっぱい、気持ちよくなろうか?」
群司の提案に如月は頷いた。
「俺とするの、好き?」
「好き。でも、しなくても好き。群司のことが好きだから」
飾り気のない素直な言葉が、偽りのない気持ちを伝えていた。
「俺も琉生さんのことが好きだよ。言葉では言いあらわせないくらい大事に思ってる」
真摯に告げた後、口唇を奪うと、群司はその躰をゆっくりとベッドに押し倒していった。
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