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エピローグ4
「これからおなじ職場ですね」
「うん。でも公私混同しないように気をつけないと」
「もちろんです。だけど心配だな」
独り言のような呟きに、如月が不思議そうな顔をした。その様子を見て、群司は思わせぶりな視線を送る。
「フェリス特別捜査本部の中に、ものすごい美人がいるって、琉生さん、同期のあいだですでに話題騒然なんですよ。不届きな輩が余計なちょっかい出さないかって、恋人としては気が気じゃないです」
躰の向きを変えて正面から腕の中に抱きこむと、如月はその胸に顔をうずめながら「バカ……」と囁いた。群司は笑いながら額にキスを落とす。
「琉生さん、好きだよ」
「うん、俺も」
応えて顔を上げた如月は、まっすぐに群司を見上げて口を開いた。
「群司、就職、おめでとう。それから――これから末永く、よろしく」
群司の口に、ゆっくりと笑みがひろがっていく。
「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」
口唇に軽くキスを落とした群司は、あらためてその顔を覗きこんだ。
「まずは一日も早く一人前の麻薬取締官になって、あなたが安心して背中を預けられる男になりますから、それまでもう少しだけ待ってて?」
誓いの言葉とするにはあまりにも情緒も色気も欠落した内容だったが、美しい恋人は、このうえなく幸福な笑みを零れさせた。
「うん、楽しみにしてる」
自分を瞶 める澄んだ瞳がゆっくりと伏せられていく。
彼がいたから未来を切り開くことができた。
人類を至上の幸福へと導く魔法の薬――
幸せを求め、求めすぎて慾心に目が眩んだ結果、一部の人間はみずから進んで破滅の扉を押し開き、救いの見えない深淵へと転落していった。
『幸福』という名の猛毒に犯された、史上最悪の事件はまだ解決していない。
人類の中に組みこまれてしまった、欲望まみれの兇悪な遺伝子。それらがすべて淘汰され、人々が正常な生命活動を取り戻すには、これから気の遠くなるような永い月日を要することになるのだろう。
そのためにも、自分は戦いつづける。
もう二度とだれかが、だれかの欲望の犠牲にされることがないように。
あらたな決意を胸に、群司は厳かな気持ちで愛しい恋人に口づけた。
~end~
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