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番外編~ある幸せな休日~ 第1話(4)

「だって、せっかくの記念だから……」  すっかり夢中になっていたことが恥ずかしくて、思わず()ねたように口を尖らせると、群司はさらに笑いながら如月が手にしていたスマホを取り上げた。 「だったら、主役の琉生さんも一緒に映らないとね」  ダイニングの椅子を引いて、はい、座ってとうながされる。如月は、窓ぎわまで移動させていたケーキを持ってテーブルに戻った。  アングルを見ながらケーキの位置を微調整した群司がスマホを構える。 「はい、琉生さん、笑って~」 「群司」  そんな恋人に向かって如月は声をかけた。 「はい?」  画面を覗きこんでいた群司が、その呼びかけに応えて如月に視線を移した。 「どうせ撮るなら、群司も一緒がいい」  途端に、同性の目で見ても見惚(みと)れるほどの精悍な恋人の顔に、人懐っこい大型犬のような雰囲気がひろがった。如月の大好きな表情だった。 「もちろん撮りますけど、でもそのまえに、琉生さん単独のも撮らせてくださいね。そんで、あとで俺にもデータください」  待ち受けにするからと言われて、如月は目を瞠った。 「えっ、待って群司、それは……っ」 「は~い、琉生さん、いいから笑って~! 俺にいちばんいい顔見せてくださいねぇ」  問答無用で群司はスマホを構える。写真を撮られることが、如月は昔から苦手だった。いまのように笑顔を要求されると逆に表情が硬張(こわば)ってしまい、レンズを睨み返すことしかできなかった。  とっつきづらい。お高くとまっている。そんなふうに言われることは日常茶飯事で、人と柔軟にコミュニケーションをとることが苦手なせいで、余計に周囲からは敬遠された。 『氷の女王』――潜入捜査で民間に下っていたあいだ、同僚たちにそう呼ばれていたことを、現職に復帰してからはじめて知った。けれどもいまは、表情も態度もずっとやわらかくなって、親しみやすくなったと直属の上司である立花に評価してもらえた。それもすべて、ありのままの自分を受け止めてくれる群司のおかげなのだと思う。  だからいまも、如月は群司に言われるまま、手作りの誕生日ケーキをまえに照れながらも笑顔になることができた。自分のためにいろいろ考えて、心のこもったお祝いをしようと一生懸命頑張ってくれたその気持ちが、とても嬉しかったから。  群司のまえでなら、如月はいつでも素直な自分を出すことができた。泣いたり怒ったり、拗ねたり、甘えたり。自分よりずっと年下なのに、群司はそのすべてを受け止め、包みこんでくれる。安心してありのままの自分でいることができた。 「琉生さん、すごくいい顔! 最高に可愛い! 俺の恋人世界一!」  ほとんど褒め殺しのような状態でシャッターを押しつづける群司に、如月は途中でもういいからと降参した。 「群司こそ撮りすぎっ。いいから早く一緒に映って!」  如月の文句に、群司は笑いながら隣に来てケーキをふたりのあいだに置きなおす。インカメに切り替え、如月の肩を抱いて自分のほうへ引き寄せた。 「は~い、琉生さん誕生日おめでと~! 三十代最初の年を、幸せいっぱいの笑顔でスタートさせましょう!」  その祝福の言葉に、自然に笑みがこぼれる。実際の誕生日までまだあと四日あるが、それでもすでに、充分幸せなスタートが切れたと思った。

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