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番外編~ある幸せな休日~ 第1話(6)

「すごい。やっぱりすごくきれい。群司の手作りで、こんな誕生日ケーキが食べられるなんて思わなかった」 「俺も自分がこういうことするタイプの人間だなんて思いもしませんでした」  群司はおかしそうに肩を竦めた。 「琉生さんと付き合うようになって、知らない自分がどんどん出てきて毎日がすごく楽しいです。俺がこんなことしたら琉生さんはどんな反応見せてくれるかな、今度一緒にあんなことしたいな、次はあそこに行ってみたいな、って想像してるだけで楽しくて」  おかげでケーキ作りの初体験までしちゃいました、と笑った。  自分のぶんを取り分けた群司は、場所を移動して如月の向かいの席に座った。 「ちゃんとプロの先生の指導の下で作ったので、味も問題ないと思います」  どうぞと勧められて、如月はいくぶん緊張気味にフォークを手にとった。 「いただきます」  自分よりも、きっと群司のほうがずっと緊張してる。そう思うのに、ドキドキが止まらない。緊張しすぎてせっかくのケーキの味がわからなかったらどうしよう。そう思うと、余計に緊張してきて手がふるえた。それでも、フォークで(すく)い取ったスポンジとクリームをゆっくりと口に運ぶ。途端に口の中に優しい味わいがひろがって、如月は大きく目を瞠った。 「美味しい!」  真剣な面持(おもも)ちで如月の様子を見守っていた群司の口から、直後に大きな息が吐き出された。 「よかったぁ……」  安堵の呟きとともにテーブルに突っ伏す。如月は、身を乗り出してその腕を揺さぶった。 「すごい! ほんとに美味しい。いままで食べた中でいちばん。群司も早く食べてみて」  早く早くとせっつく如月の手を、群司は握り返した。 「珍しいね、琉生さんがこんなに興奮するの」 「だって、びっくりするくらい美味しいから」  群司を見つめる瞳がキラキラと輝いている。 「一応規定どおりに作ったから、まずいってことはないかなって思ってたけど、結構ドキドキしてたんですよね。琉生さんに美味しいって言ってもらえるかどうかはまた別の話なんで。ほんのちょっとだけ甘さ控えめにしてみたから、それがよかったのかな」 「うん、すごく食べやすいし、味も好み」 「そっか。琉生さん好みの味にできたのは、やっぱ愛情の賜物(たまもの)かもね」 「いいから早く食べてみてってば」  もう三十になってしまうと年齢を気にしていたことが嘘のように如月ははしゃいだ声を出す。そんな如月を見て、群司は目もとをなごませた。自分だけに見せてくれる、素直で屈託のない反応が嬉しかった。 「よし、じゃあ俺も早速味見してみよう」  調子のいい口調でおどけて見せて、フォークに乗せたひと切れをバクリと口に入れる。なぜか如月のほうが不安そうにその様子を見守っていて、思わず吹き出しそうになった。それを(こら)えながら、群司は大きく頷いた。 「うん、イケる。自分で言うのもなんだけど、思ってた以上によくできてるかも」  途端に如月の表情が、パアッと明るくなった。 「ね? ね? すごく美味しいよね。俺もさっき、ほんとにびっくりした」 「ほんとだね。俺、意外な才能発揮しちゃったかも」  冗談のつもりで言ったのだが、如月はうんうんと嬉しそうに頷いた。  実際のところは、素人がはじめて作ったにしては比較的よくできている。そのぐらいの仕上がりのはずなのだが、如月が予想以上の反応で喜んでくれたため、有名パティシエにもまさる、絶品チョコレートケーキという評価になっていた。  こんなに純粋で大丈夫だろうかとときどき心配になるが、これでいざ仕事となると、余人の追随をいっさい許さない切れ者へと変貌するのだから恐れ入るしかない。本当に、どこまで魅力的な人なのだろうと群司は内心で、最愛の恋人を褒めそやした。

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