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番外編~ある幸せな休日~ 第2話(2)

 如月が気に病むことはわかりきっていたので黙っているが、あのネクタイピンは、成人を迎えた群司に兄の優悟が贈ってくれたものだった。群司がそれをどう使って拘束を解き、天城邸に乗りこんだのか、自分の口で説明したことは一度もない。それでも如月は、あの混乱を極めた救出劇のさなかに群司の格好を見ておおよその事情を察し、ずっと気に留めていてくれたのだろう。  如月にも言ったとおり、鍵をはずすために使用したのはチェーンから先の部分だけで、本体は問題なく使える。だが、仮にダメにしてしまったとしても、兄ならば間違いなくその判断を評価してくれたことだろう。救出する相手が如月であればなおのこと、よくやったと褒めてくれるに違いない。そう確信していた。 「それじゃあ俺からも琉生さんに、あらためて誕生日のプレゼント」  後ろに隠していたものをさりげなく出すと、如月は驚いたように身を起こした。 「え、だってさっき、ケーキもらった」 「あれはふたりでお祝いするために用意したものだから。ちゃんと形として残るものも用意してますよ? 琉生さんじゃないけど、メインのプレゼントはこっち」  目の前に差し出されたものを、如月はまじまじと()つめた。 「心配しなくても、ちゃんと『学生のバイト代で買えるもの』を選んだから、受け取って?」  どうぞとうながされて、如月はおずおずと受け取る。こちらも掌サイズのパッケージだったが、ブランドのロゴが入った合皮製のジュエリーボックスで、ダークブラウンの上蓋を開けると、ゴールドの細身のバングルが輝いていた。 「きれい……」  如月は感歎の声を漏らした。 「琉生さんに似合いそうだなって、ひと目惚れして買っちゃいました」  勝手に妄想して、ひとりで盛り上がって選んじゃったと群司は照れ笑いを浮かべた。 「琉生さん、普段着てるものもいつもお洒落でセンスがいいから、こういうデザインだったら邪魔にならないし、合わせやすいかなって思って」  説明しながら、箱から取り出したバングルを如月の左手首に嵌める。そして、満足そうに頷いた。 「うん、やっぱりすごく似合ってる。想像したとおりどころか、それ以上」  サイズもぴったりだね、と言われて、如月は自分の左腕に嵌まった繊細なデザインのバングルをしみじみと眺めた。 「ほんとにきれい。群司が俺のために選んでくれて、すごく嬉しい」  言ったあとで、心配そうに群司を顧みた。 「ほんとに無理してない? 高くなかった?」  どこまでも学生である自分を気遣うその言葉に、群司は大丈夫と穏やかに応えた。 「いまの俺の立場で、変に背伸びするのはみっともないって最初に言ったでしょ? だから本当に、無理のない範囲で選んだよ? 卒論も提出し終わったからバイトも再開したし、その稼ぎで買えるものだから全然高価じゃないけど」  そのぶん気持ちをこめたから、という説明に、如月は自分の腕にあるバングルを右手で包みこんだ。 「ありがとう。一生大切にする……」  すごく嬉しいと呟いて、自分から群司に抱きついた。 「やっぱり俺の彼氏、最高にカッコイイ」  気持ちを伝えるようにギュッと抱きしめると、群司も負けずに抱き返しながら嬉しそうに笑った。 「俺の彼氏も最高に可愛くて最高にカッコイイ! 琉生さんの誕生日なのに、俺のほうがサプライズしてもらっちゃった」  俺も大事にするね、という群司の顔を、如月は満面の笑みで見返した。

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