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第208話

あの頃の気持ちに(ジュンヤ) その61 待っていた。 マンションの部屋でじっとあいつを待っている。 ー今度はお前から来る番なんだよ、ジュンヤー 厚い雲に覆われていた空から、半月が顔を出す。 青白く清した月が雲から離れるように流れて行く。 まもなく真夜中になるんだろう。 下を通る車も空きだした道にスピードを上げている。 部屋に置いた唯一のアナログ時計が時を刻む音が響く部屋で俺はひたすら愛する男の到着を待った。 ドアが開く、合鍵を使って入ってくる人は一人。 振り向いたそこには、 漆黒の長めの髪も美しい、 妖艶で淫靡で欲が匂い立つ身体。 今夜はその身体の上に、今にも泣きそうな切ない貌を乗せている。 「 おいで 」 と言うと飛び込んできた身体をしっかりと抱きとめる。 「 愛してる。愛してるんだ 」 告げた言葉は静かな秒を刻む音しかしない部屋にゆっくりと沈降していった。 無言のままただ真っ裸になって抱き合った。 吐息と喘ぎ、そして重なる皮膚の擦れる音。 お互いの腕が胸が下腹が太ももが足先がそして指先と唇が、ひと時も離れることを許さないと重なり合う。 俺の熱い身体とジュンヤの体温の低い身体が触れ合った場所から融け合って、汗、涙、そして性液となって二人の身体をしとどに濡らし、征服したい欲望の証がが組み敷いた肉を覆い尽くす。 何度男性器から吐精しても、挿れる場所ではないそこに溢れる淫液を吐露しても、絶えることなく震えて欲しがる身体をより快感を産む用に、その快感をきざみつけるよう丹念に愛撫する。 「 アイシテル、アイシテル、アイシテル、 ……スキ 」 そのフレーズだけ繰り返され睦むささやき。 何度も美しい眦を濡らす涙に、 ジュンヤの辛かった過去 あの頃の気持ち を想う。 思わず眉を蹙め、あの時幼い性を受け止めてやれなかった日を謝罪しそうになった俺にジュンヤはそっと唇を寄せると、 ガリッと唇の端を噛みしめる。 一筋顎に流れた血をその舌で丁寧に舐め上げると、 「 マッテル、今度こそ俺のそばに居て 」 と囁いた吐息を俺は一気に奪った。 一週間後、ジュンヤは手荷物だけで俺の家を出た。 車で空港まで送っていくと言う俺を眩しそうに見上げて、 「 真名彦さん、ありがとう 」 この一週間でだいぶ聞き慣れた俺の呼び方も今朝はこそばゆい。 向こうでは一軒家を四人でシェアして住むと聞いて、ベッドルームの数だけはきっちりと確認した。 空港に着くと先に来ていた三人に正式に紹介される。 三人中二人は仏頂面で俺に挨拶するのが潤の言っていたジュンヤに横恋慕してる、ドラムとギターだなと直ぐにわかった。 お互い必要以上の力で握手する。 呆れた顔を見せるジュンヤの耳元で、 浮気したら亀甲縛りで逆さ吊りにしてやると囁いたら、 瞳が潤んで口元を綻ばせて吐息が熱くなったジュンヤ。 しまったこいつはマゾだったか…… 目の前の横恋慕の獣二匹は欲望丸出しの顔でそんなジュンヤを呆けたように見つめていた。 羽田から飛び立つ飛行機。 「 噛んだ唇の血をもらってく 」 と手を振って出国手続きのカウンターに向かうジュンヤ。 その後ろ姿に続く体躯の大きな男たちを見送りながら、 「 けつ大事にしろよ 」 と馬鹿な事を呟く俺。 さぁ、菅山に押し付ける仕事の整理をつけなきゃならない。 これから一年の忙しい日々。 そして、 来年の今頃、 俺は日本には居ない。 了 お読みいただきましてありがとうございました。 ロックの日に ここで一旦完結いたします。 今後ドイツ編書こうと思っておりますが、 なにぶん体験集め今からですw また、よろしくお願いいたします。 超オヤジですから急がないと大変‼️w

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