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第177話

あの頃の気持ちに (ジュンヤ) その31 サックスの音階が上下へと跳びながら進行するノリの良いフレーズがポンと耳から入ってきたのは、注文を渋谷君に伝えた後だった。 あぁ、Nght And Dayか、 好きな曲じゃないか、損したな…… 思わず苦笑いすると、潤がこちらを見て少し頬を染めていた。なぜだ? もう、酔ったのか…… バーボン半分で酔うとは、最初から軽いものにさせとけば良かったな。 賑やかな拍手で三曲目が終わったので、もう一回渋谷君を呼び潤のお腹に入れられるようになにか見繕ってくれと頼む。 BLTとフィッシャーマンズスープをチョイスしたようだった。 次の曲が直ぐに始まらないのでふとステージに目をやると、 じっとこちらを見ていたジュンヤと視線が絡んだ。笑いかけたらプイと横を向く。 カチャとテーブルの上で音がして、手に冷たいものが押し付けられた。驚いて手を見ると潤がチェイサーの氷を俺の手の甲に押し付けている。 「 どうしたんだ?なにしてる 」 「 手が暑そうだったから 」 は? 「 だってそんな熱い目でジュンヤ見ちゃ、ダメなんだよ、ダメ 」 なんだこれは、ともかく氷を払ってナプキンで手を拭い、 「 酔ったのか?今食いものオーダーしたから腹におさめろよ 」 と言うとますますぶすっとした顔になる。 「 酔っ払ったらあなたの家に連れ帰ってよ 」 「 ダメだ、話にならない。俺は子どもは相手にしない 」 「 僕は子どもじゃない!」 とうに次の曲は始まってる。 プイと横を向いた割にはジュンヤは軽快で楽しそうに、 Scrapple From the Apple を演奏してる。ジュンヤを眺めながら、朝飯に平たく叩いた豚肉をアップルバターで食べさせたくなったな、なんて甘いソースの味を考えながら出る言葉は辛辣だった。 「 すこし黙ってろ、俺はジュンヤのサックス聞きに来てるんだから 」 潤はL字型のボックスシートの間を詰めて俺の太ももに自分の太ももをぴったりくっつけるように座ってくる。なんだかおかしな奴だな。 「 そういうとこがお子さまだ 」 と諦めて頭を撫でてやると更に肩に寄りかかってきた。 猫みたいな奴、ジュンヤにこういうところが似てなくもないな。仕方ない暫くほっとくか。 心なしかジュンヤのサックスの音が粗く聞こえてきた。

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