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運命ってなに? 第1話 運命? | ちはやの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
運命ってなに?
第1話 運命?
作者:
ちはや
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第1話 運命?
騒
(
ざわ
)
ついていた飲みの席。 店内は満員御礼。 俺たちは12名ほどで座敷を貸し切り宴会をしていた。 遅れてやって来た新入社員を茶化して居ると 違う意味の騒めきが起きる。 一斉にその場にいた
α
(
アルファ
)
の視線が俺の隣にいた
幸人
(
ゆきと
)
に注がれた。 「幸人?おいっ!?」 「ごめ…
晴翔
(
はると
)
…きちゃった…みたい」 おいおいおい、新人歓迎会の真っ最中に
発情期
(
ヒート
)
は不味いだろっ 3か月の研修を済ませ、各部署に配属辞令が出た可愛い後輩達の歓迎会だ…今後の先輩としての沽券に関わるだろう。 今し方着たばかりの後輩は上着を脱いだ状態でこちらを見て固まり、俺の隣の新人はゴクリと喉を鳴らす。 薬は?と聞くと鞄の中…と言うから幸人と鞄を持ってトイレに駆け込む。 個室に入りとりあえず断りは入れて幸人の鞄の中を物色して目当ての物を探し出す。 抑制剤と1週間有効の避妊薬。 本当は抑制剤だけでいいんだが…
Ω
(
オメガ
)
はいつでもαの餌食に成りかねないので先に飲ませておく。 こいつは俺の元セフレ…俺に恋人が出来るまでで良いからと一時そんな関係を持ったことがあったが、今は俺には可愛い運命の番がいる。 こいつもそれが分かっているから俺に番が出来てからは他で何とかしている様だった。 …が、定期的にαと関係を持たないΩの発情期はかなり不安定になる。 まだ…みつからないのか。 俺は自分のスマホを取り出して薫に連絡を入れた。 『…うん、分かった。幸人さんには僕の事は気にし無いでって伝えて…きっと気を使うと思うから』 分かった。と伝えて電話を切る。 いくら俺たちが古い付き合いだからって言っても、自分のαが他のΩの
発情期
(
ヒート
)
の
フェロモン
(
匂 い
)
を纏わせて帰って来たらどんなに辛いか…心苦しくもあるが、幸人は俺と薫の間を取り持ってくれた恩人だ。 薫は俺と幸人の関係も知っている。 薫を傷つけたく無いが、幸人を放って置けない俺を含めて好きだと言ってくれた薫だ。ここで幸人を見放したらきっと薫に怒られてしまう。 だからこそ、変な誤解をさせないように最善の注意を払うし、誠実さを忘れない。 既に俺はやらかしてるからな… 抑制剤を飲めば小一時間は
匂い
(
フェロモン
)
は薄まる。 通常のαなら理性をもって紳士的な対応ができる。 例えるなら「あ、いい香りの人だな」と目を引くくらいの話しだ。 だが、俺の目の前でハァハァと色っぽい息づかいで発情し始めているこの幸人の香りは少々厄介で、αを
挑発する
(
誘 う
)
様な色香を持つ。 相手が番でなくても錯覚を起こさせてしまうような…そんな甘い香りを放ってしまうのだ。 俺はこいつが中学の時に発情し、教師に襲われそうになったのを助けた時からの付き合いだった。 セフレになったのは高校に入ってから…俺はこいつと一緒になるもんだと思っていたけど、俺は…こいつの番では無かった。 コンコンコン とノック音がして店の店長らしい奴が
フェロモン
(
匂 い
)
が他の客に迷惑掛けて困るから外に出てくれと言ってきた。 カチンと来た俺はうるせぇと唸る…と 「すみません。抑制剤…を今飲みましたので もう少ししたら…出ます。」 幸人が震えてる指で俺の袖を握る。 「…早目に出てくださいね」 チッ…んだよ、αが付いてるなら迷惑かけんじゃねーよっ 店長の出て行き様のその言葉にボソボソ言ってんじゃねーよっ!ともう一度キレかけ扉を蹴り倒して文句を言おうとした俺を幸人が引き留め小さく首を振る 「ごめん…晴翔にまで、嫌な思いさせちゃったね」 「気にすんな、所詮
β
(
ベータ
)
にはわかんねーよ。 アイツら、ただ俺たちが盛ってるくらいにしか 思ってねーんだっ」 αは有能な人間が多く凄いと羨望を集めている反面、発情期でラットを起こしたαによる性犯罪は決して少なくは無く、それによる暴行事件も多発していて、何も感じないβにとってはその生態も辛さも分かりはしない。故にさっきの店長みたいな態度をとる輩も少くは無かった。 この世の半分はβだ。 そして、一番人害と言われて居るのがαを狂わすと言われるΩ…。 今でこそ人権も確立して雇用機会均等法も制定され、生理休暇として定期の発情期休暇も認められては居るものの、昔は奴隷並の迫害を受けていたと言う。 俺たちαはΩが居なければ自我も保てない程の獣に落ちる。 それなのに───… 「晴翔…そんな顔、しないで…」 チッと心の中で舌打ちする。 幸人…お前は優し過ぎるんだ。 もっと世の中に文句を言ってもいいんだぞ! 「おい、水嶋、叶は大丈夫かぁ?」 「主任っ、叶先輩大丈夫ですか?なんなら俺送りますよ…あ、俺もう
番
(
つがい
)
いるんで!その辺は安心してくださいっ」 βの上司と入社2年目の生田が声を掛けてきた。生田は幸人に懐いている直属の後輩だ。 アルファでも珍しくΩだからと言ってその能力を否定する様な低俗な奴とは違った。 ムードメーカーでもある彼のフォローが助かると日頃から幸人も話していた。 「しんどかったら気にしずもう少しそこで休め。 ここは俺の行きつけだ。さっきここのオーナーに店長の事はクレーム入れといてやったからな、心配するな!」 左野部長は大らかな笑い声を上げて伝えてくれた。 この人が俺たちの上司で本当に良かった。 「いえ、薬が効いてきたので、今のうちに帰ります…本当に申し訳ありません」 腕の中の幸人はまだ小さく震えてはいたが大分理性は戻ってきて居る様だった。 「気にするな。今日は無礼講だしな! 明日からの休暇も受理しとくから心配するな」 じゃあ、俺は皆んなの所に戻るわ と左野部長は大らかに笑いながら戻って行った。 俺は俺の胸に顔を埋め胸元にすんすんと鼻先で匂いを嗅いで落ち着こうとして居る幸人の背中をさすってやりながら、後輩に俺の鞄と上着を持ってくる様に伝えた。 この状態の幸人はクソ色っぽい。 後輩には心配で任せる訳には行かなかった。 それは後輩の為にも…だ。 「晴翔、いいよ。一人で帰れる。 薫くんが心配するから…ごめ、発情期終わったら薫くんにもちゃんとオレから連絡するよ」 俺の体にベッタリこびり付いだであろう自分の香りに薫が心配するだろうと言う配慮だとすぐ分かった。 「薫には連絡済みだ。お前をちゃんと送り届けろとのお達しだ。あと、自分の事は気にしないでってさ。 どうよ、うちの子。可愛すぎだろ?」 ニヤっと笑って見せると安心したように笑顔を見せた幸人に安堵する。 俺は幸人を家に送り届けた。 一時は同居していたが、俺に番が出来てからは家賃の関係で幸人も以前のマンションを出てアパートに越していた。 残念ながら、αとΩだと初任給にしてもベースから違った。 ただ、今の営業部の部長はさっきのあの人で、成果を正しく見て評価してくれている為、幸人もβ並の給料になるくらの能力給はついてると別れ際アパートの家賃を半分持つと言った俺に幸人は笑ってそう言った。 幸人が移り住んだのは薫の祖父が持っていたアパートで、薫が住んでいた部屋だった。家賃は薫と同じ身内価格にして貰えたから大丈夫と喜んでいたな。 古いアパートではあったが、自分の娘がΩだったじいさんがΩ用にセキュリティだけは厳しく作ったアパートだった。 そのアパートのゲートは事前に登録した指紋認証で一致した者しか入れない。 部屋も指紋認証で複数登録でき、中には警察に通報がいく様に設定出来る仕組みになっていた。 これがあるから後輩には辞退してもらったのもあるが…最悪の事も考えて…俺も付いてきた…。
発情期
(
ヒート
)
のスイッチが入ったらΩは本人の意思に限らずαを誘惑してしまう。 勿論全員ではないが、特定の相手が居ないΩの匂いは濃い為、部屋を締め切っても漏れだしフリーのαなら香りに誘われてしまう。 その為その香りに誘われたαを部屋に引き入れて孕まされるケースは残念ながら少なくはない。 俺にはもう
薫
(
つがい
)
が居る。 番の居るαは基本的には自分の番以外のフェロモンにはあてられたりはしない。 ただ、特殊なフェロモンを放つ幸人は時々例外を発生させてしまう。 だから
幸人
(
こいつ
)
のフェロモンに免疫のある俺が抱く…。 先の電話で薫に確認したのはその許可だ。 俺には幸人にどれだけ償いたくても償い切れない贖罪があった。 それに、今まで抱いてきた俺なら、万が一、幸人が過剰に強請って来ても無茶に抱く事はない。可哀想だが中出しもしない。 それでも最悪、俺の匂いをこいつの体に擦り込み、俺の匂いの付いた物を部屋に置いて置けば他のαに対しての抑止力にはなる。 薫もそれを分かってくれて居る。 「とにかく、部屋に上がるぞ?」 「ぇ?やっ…待って、晴翔っ!」 勝手知ったる部屋だ。 薫の部屋だった時にも俺はここに来ている。 そして薫は幸人が俺の匂いも有るからこの部屋にした事も知っている。 ん? …俺じゃない…匂いが…… 無遠慮に中に入り匂いの元を辿る 「だめっ!開けないでっ」 ここか?幸人の静止より早く押入れを開けるとそこに物はなく… いや、正確には…レシート…紙袋…紙コップ…おしぼり? ……ゴミ? 「お前…綺麗好きなのに、なんでこんな ゴミ…」 「触っちゃダメ!」 手を伸ばそうと思った俺の前に割り込み「触らないで!」と、そのゴミに覆いかぶさる 「こ、これ、お、オレの大切な…巣材っ」 ……へ? スザイ…って、巣材? オメガが発情期に作る『やり部屋』の材料の事で、オメガが本当に惚れたアルファの匂いの付いた物をオメガが無意識で集めて自分の周りに置いたり敷いたりしてその形状が鳥の巣の様だからオメガのその行動を巣作りと良い、オメガは少しでも良い素材を集め、立派な巣を作りをし、最愛のアルファを招き入れる。 招き入れられたアルファもその多幸感に酔い、三日三晩その巣でオメガを抱き続ける。 オメガが巣を作る事はアルファにとっては誉れ。 そのアルファに巣を褒めて貰う事はオメガにとって最大の賛辞。 サーッと血の気が引くのを感じた。 「ごめっ!」 俺は一番言ってはいけない言葉を吐いてしまったことに気付き、誤った。 無遠慮どころか、ともすればΩの精神状態を乱す過ちをおかしてしまった…。 「ううん、気にしないで…ホントに…ゴミだから…お粗末すぎ…だよね」 幸人の顔は見えないが、なんとも、気まずい…。 「それ…俺の、じゃ…ないよな?」 暫く黙っていた幸人は俺の視線に負けた様にコクリと頷いた。 「いつまでも晴翔に頼れないから…」 「にしたってさっきお前…俺の匂いを…」 首を横に振り俺のワイシャツの胸ポケットから紙切れを取り出した。 それは─── 「『杉下 誉』くん…初めて名前を知った…」 研修先から遅れて来た後輩にタクシーを使わせたので預かった領収書。 幸人が大切そうにそれを見て、これまでに見た事のないうっとりした表情でその紙切れに頰を寄せた。 「オレの…僕の運命の人なんだ」 +-----------------+ ⭐︎幸人side→ 朝から体調が優れない… 今日は新人の迎入れもあるのにどうしよう。 前の
発情期
(
ヒート
)
からそろそろ3か月…抑制剤と…避妊薬も持って行こう。 首輪は…少し考えて鞄に突っ込む。 出来れば初日から自分はΩですと言い廻る様な事はしたくない。 仕事を見て、評価して欲しいから… 押入れを少し開けてスンッと匂いを嗅ぐ。 物理的な匂いではなくフェロモンの匂い。 薄まって欲しくなくて押入れの荷物を全部出して宝物だけそっと並べた。 そこに並ぶのはケータリング用の紙袋、紙コップやレシート…おしぼりだった。 巣材としては貧相極まりない材料。 笑われてしまうようなものばかりで本来巣材とさえ言えないものばかり 4ヶ月前── いつもは会社の自販機でコーヒーを買う僕は その日、その芳香に誘われて会社の近くのコーヒー専門店に入った。 今風のカフェでは無く、豆と焙煎に拘る本格珈琲店。 席につき、メニューを見て後悔した。 レギュラーコーヒー一杯が800円… 眉間に皺が寄るのが分かった。 だって、平素食べてる僕のランチ2食分の金額だから…大奮発だ。 普段は外回りだけどおにぎりを握って公園のベンチで食べていた。 会社にも上司にも恵まれて、多分
Ω
(
オメガ
)
の中では僕はお給料的にも恵まれている。 それでもΩはいつ職を失うか分からない。
β
(
ベータ
)
の親には迷惑を掛けないようになるべく生活は切り詰めて貯蓄に回していた。 それでも入社4年目になると夢を見てしまう。 同時入社の中学からの腐れ縁の晴翔は今年主任昇格した。 彼は
α
(
アルファ
)
。僕よりも成績が良いし正当な評価だから不満はない。 でも、たまに思うんだ。 僕がΩじゃなくて、αとは言わないからβで、3か月に一度の
発情期
(
ヒート
)
が無ければ…もっと仕事が出来て、ひょっとしたら僕も主任になれたんじゃないかな…
晴翔
(
はると
)
より認められていたんじゃないかな…って。 ───嫌な人間だね、僕って。 晴翔との出会いは中学の時、クラスは違ったんだけど初めての
発情
(
ヒート
)
を起こしちゃった時に側にいた新米の先生が僕の匂いに当てられて、襲われそうになったところを助けて貰ったのが出会う切っ掛けだったんだよね。 晴翔は高校になってからアルファって診断されたけど、アルファの家系って聞いてたし、雰囲気的にも良い意味でアルファなんだろうなぁと思っていた。 だから、ラットで困ったら僕が相手になるって話していたんた。 晴翔は曖昧に笑って話を濁していたけど、僕は晴翔なら良いと思った。 中学の頃から僕の匂いにも、Ωって言う立場にも囚われないで大らかに接してくれる晴翔に救われたから。 初めての晴翔のラットは本当に大変だった。 Ωの
発情期
(
ヒート
)
は3日から一週間、相手が居るかどうかによってもだけど少し長い。 それに対してラットは1日。正確には20分程掛けての射精を一回すれば思考は正常に戻る。 体的にも落ち着くと言われてる。 『はず』だったのに…晴翔のそれは3日も続き、僕を部屋から出す事も、部屋に誰かが近づく事も許さなかった。 運命の番かと勘違いしそうになるほど…晴翔は僕を激しく求めた。 「はる…はる、と。だめっ…やすませ…あっ やぁっ…あっ、そこ、ダメ!あっ、んん」 「ね、
首輪
(
コレ
)
外して…邪魔っ。ねっ、噛ませて ユキの
頸
(
ココ
)
、噛ませろよっ!」 「やっ、ハルッ、痛いっ、ん、あっ、あっ、また 逝っちゃう、そこ、くるし…また出てるっ、 ハル又出て…んぁっ、お腹破裂しちゃ、あっ ひゃあぁぁあ」 拙い愛撫と、激しい腰使い。 ただただ、自分の欲求を吐く為だけの本能の動きで、3日して晴翔が正気に戻った時には発情期でも無かった僕のアソコは切れて流血してるし、全身噛み跡や鬱血で酷い有様だった。 まぁ、そこは晴翔のお家のお抱え医師が至れり尽くせり2日高熱が続いて意識が戻らなくて1週間起き上がれなかったけど完治まで責任見てくれた上に、後で知ったけどうちの親にお金まで渡していたらしい。 まぁ、僕が前に晴翔には助けて貰ってたのと、晴翔とは親も顔馴染みでその時には既に親友だと知っていたうちの親はそれを貰う事は無かったみたいだけど。 それに、元から晴翔が困った時は僕が助けると伝えてあった。 晴翔の家は代々の富豪。当時の僕でも知ってるような大企業の三男坊だった。 本人は愛人の子だと自虐的に話していたけど、アルファの家ではよくある事と聞いていた。 だから晴翔は勿論父親に認知されていたし、家族には大切にされていた。 まぁ、晴翔のとこのお父さんの秘書って人がその後またうちに来て、僕に晴翔の正式な番が決まるまでの繋ぎの愛人契約話を持ってきた時は、うちの両親はブチ切れそうになったわけなんだけど、子供が出来た場合は責任をもって引き取るなんて追い討ち掛けて言うものだから母親なんてその場でキッチンに駆け込み塩をその秘書さんにぶっかけたものだから、非常識な!って怒っていた父さんが慌てて止めに入るくらいの我が家最大の事件になったんよね。 その後、晴翔が来て土下座して僕と僕の両親に泣きながら謝ってくれた…。 恥ずかしくて申し訳ないって それでも僕と居ることを許して欲しいって 高校生のΩの僕にはこの世の中がΩにとってどれほど生きにくいかは分かっていたし、そんな中こんな誠実なαが居るんだ…と思ったらそれは本当に救いだったんだよね。 恋かと思った…。 普通に…αやΩに男女の性別への偏見はない。 晴翔とは大学も…就職先までも同じになった。 晴翔は親の会社に行くと思ったのに、自分の好きな道を進みたいと、僕と同じ大学に入り、就職先まで同じ所を受けた。 コレに関してはやめて欲しいと言ったけど、一緒に住むなら同じ大学、同じ会社が良いだろ?としれっと言って退けた。 僕達は付き合っては無かった…。 ただ、晴翔はあの3日間の事を酷く後悔して贖罪の様に僕について来た様なものだった。 それでも─── 本人には言ったことは無いけど…多分、初恋。 だけど、僕らは自分達が運命の番じゃないのは分かってた。 そして… 晴翔には───薫くんが現れた。 僕は心から祝福した。 そして、晴翔を解放してあげようと思った… 薫くんには僕の所為で色々不安な思いもさせちゃったけど。 僕は、心から2人を応援したんだ。 晴翔には沢山甘えて来たから…今も助けて貰ってるけど。 それから、αに抱かれなくなった僕の躰は体調不良と不定期に訪れ発情期に悩まされ事になる。 「お決まりですか?」 ハッと意識を引き戻された。 お水とおしぼりを置きながら店員さんが声を掛けてきた。 「あ、ごめんなさい。えっと…缶コーヒーしか飲んだことなくて。オススメとか…ありますか?」 慌ててメニューに目を落とすと店員さんが 「ああ、俺もここでバイトする迄はそんな感じ だったんですよ。渋みとか酸味とか好みは ありますか?」 あ…この香り…この子、アルファだ 僕の手にあるメニューをパラパラめくり、色々説明してくれる だけど、なんにも耳に入ってこない。 僕の隣にある端正な横顔に心臓が跳ね上がった。 「あ、あの…君のオススメをっ」 「え…」 「本当にそれで、いいんで!」 顔が赤いのが分かる。恥ずかしいっ 変な男だと思われたかも… ふと、おしぼりが目に入る…袋に入ってない昔ながらのタオルのおしぼりそっと手に取る ぶわっと体温が上がるのが分かった。 周りを見渡しサッとそのおしぼりを鞄にしまってしまった。 「お待たせしました。 あれ…おしぼり忘れてましたね。 すみません、すぐお待ちします。」 「あ、大丈夫…」 「お兄さん、汗かいてるし。イケメン台無しだ から」 ニコッと爽やかな笑顔。昼間もハイクラスのαが持つ品のあるイケメンだけど、この子も体格と言い、顔といい…て。おしぼりで顔拭いたらおじさんみたいだし… ふふ…と笑いが込み上げ緊張が解ける。 ドキドキしながら持って来て貰った本格的なドリップコーヒーに口をつける わぁ… それは酸味と甘味とコクのバランスが絶妙で 「美味しい…」 「あ、良かった。俺それ気に入ってて最近 そればっかりなんで」 いつの間にかおしぼりを持って隣に立っていた彼に驚き下を向いてしまった。 笑顔を見せてくれたのに…顔が熱くて…結局おしぼりで顔を拭う事になってしまった 僕の運命──── 「あ、あのっ、お持ち帰りとかできますか?」 「…ショートサイズのみですが、出来ますよ。 クスッ…そんなに気に入って貰えたんですか?」 「はい!とてもっ」 勢いよく聞き過ぎた?年甲斐もなく…恥ずかしい。僕、変?変だよね?い、今笑われた? すごく、すごく恥ずかしかった。 それでも、それ以上に─── 少しでも彼の香りの付いたものか欲しかった。 振り返り晴翔の顔を見つめた。 そして、その胸元のポケットから彼が持って来た領収書を抜き取る。 ああ…彼の香りがする 「オレの…僕の運命の人なんだ」
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ちはや
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