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嫁入り9
「ああいう場所は、ホント肩がこるよ。」
足音でわかってはいたが、二人いる。もう一人が低いが優しげな声で言葉を返していた。
その声には聞き覚えがある。先ほど聞いた声とよく似ているのだ。
暴虐王と血縁関係のある誰か。立ち上がろうとした足をレオニードは止める。
本当に立ち上がって大丈夫だろうか。不敬として問題にならないのだろうか。
これが今までいた軍の施設であれば何が正しいのか分かった。けれどここは異国の宮殿だ。
しかも相手はあの暴虐王の血縁者かもしれない。もしかしたら皇族だ。
それでも、盗み聞きがばれるよりはマシだろう。レオニードは立ち上がろうとした。
「それにしても、男の嫁さんとはな。大丈夫か?」
「だいじょーぶ。別に婚姻なんて意味は無いだろう。」
――ぐらり。
足元が揺らいでしまった。今までそんなことは一度も無かった。それなのにも関わらずレオニードはドサリとしりもちをついた。おそらく先ほどまでの謁見で極度の緊張を強いられたせいだろう。
自分の体が思った通りに動かないことにレオニードはほんの少し狼狽えてしまった。
「何者だ!」
その音に、先ほどとはうって変わった剣呑とした声で怒鳴られる。
この国では同性同士の婚姻が法によって認められている。
けれど、実際のところ同性同士で婚姻を結ぶものは少数でしかない。特に、王侯貴族は。
男の嫁をもらった、この国の王宮にいる者など限られている。
真っ黒い影が一気に俺に近づく。それが、黒が彼の着ている黒い衣の色であることにようやく気が付いたときには、既に彼の手にした剣の切っ先が自分の首をかすめようとしているところだった。
剣をすんでのところで避けると、ああやはり、目の前にいる男は暴虐王本人だった。
あの優し気な声を出せる男が目の前で無表情でレオニードに剣を向けていた。
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