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切先1

◆ それからの日々は目まぐるしく過ぎていった。 施された教育がお妃用のものでは無く王としてのものだということはすぐに分かった。 領地を持つ者のための教育。 実際の貴族がどの程度同じようなことを学んでいるのかは分からなかったが、自分の伴侶である人の言ったことは少しだけ分かる様になった。 とはいえ、番らしいことは何一つしていないのだ。 ただ、時々深夜に暴虐王が俺の部屋に来るようになったこと以外。 完全にレオニードが一人になった時を狙ったみたいに暴虐王は現れる。 別に、特に何をする訳でもない。ただポツリポツリとお互いの話しをするだけだ。 人は皆下がらせている二人きりの部屋でただ静かに話をするだけだ。 何のためにそんなことをしに来ているのか分からない。 もしかしたら、これから殺すことになって哀れみから顔を見に来ているのかもしれない。 けれど、そんな話しはお互いの口から出ることは無かった。 ◆ 「剣技を嗜んでいるというのは本当か?」 ある晩、暴虐王は俺にそんなことを聞いた。 「まあ、軍人だったので。」 それが仕事だった。だから嗜んでいるというよりは、この国に来るまでレオニードのかなりの部分を占めているのがそれだった。 「一度お手合わせ願いたいのだが。」 暴虐王はそう言ってから笑った。 「折角だから勝てば褒美を取らせよう。」 そこで、勝てば国に返してほしいと願わない位には世の中のことを分かってきたつもりだ。 国同士の関係があるのだ。レオニードたちが帰ってしまった後の事を考えられる位にはなっている。 教育の成果ってやつなのかもしれないが、あきらめにも似たそれがレオニードはあまり好きではなかった。 「こちらは今からでも構いませんよ。」 褒美は、とレオニードは逡巡する。 それから申し訳なさそうに口を開いた。 「私が勝った暁には、陛下の名を教えていただけませんか?」 婚姻を結ぶ前、目の前の男の名を聞くことは無かった。暴虐王という名でしか呼ばれない男の名を知りたいと思った。 けれど、自分の伴侶の名を聞ける機会にここまでありつけなかったのだ。 暴虐王はレオニードを見て、喉の奥で笑った。 「そうか。名乗ってすらいなかったか。」 お前がそれでいいのならそれでいい。打ち解けた友人の様に暴虐王は言った。

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